チャムカル川周遊散歩
 
平成19年1月8日

 チャムカル川はジャカールを南北に流れている。我がタムシン・ロッジの下を流れている。この川には2つのつり橋が架かっている。小春日和、穏やかな天気だ。モンちゃんドライバーを連れて、2つのつり橋を渡るチャムカル川周遊を試みた。
 モンちゃんドライバーは何時ものように「ウーウー」と言いながら、針金で作った特製車を運転しながらついてくる。坂を下りるとそこは王妃別荘の建築中だ。川沿いの道を緩やかに上って行く。迷子らしい子牛が「モーモー」と母親を探している。背中をなでてやると後をトコトコついてくる。背中が暑くなるほどの強い日差しだ。私がチョルティン(仏塔)を左回りに通過してもモンちゃんは必ず右回りに回る。さすが小坊主である。迷子の子牛も我々が母親でないことに気づいたのか、ついてくるのを諦めたようだ。相変わらず「モーモー」と鳴いている。舗装道路が切れるところにタムシン・ラカンがある。創建は1501年と新しいが、開祖はブータンを代表する高僧ペマ・リンパだそうだ。そこから先は砂利道。モンちゃん、今度は「ブルルンブルルン」と言って運転しにくそうだ。川原で洗濯をしている。つり橋だ。観光するほどの橋とは思えないが外人観光客が1人。モンちゃんの車を興味深そうに見ている。川には鮎なのか鱒なのか、それとも岩魚なのか小魚が群れを成して泳いでいる。モンちゃん、バランスを取りながら巧みに渡ってくる。

  

つり橋を渡り、川沿いを左手に折れると、川原にブータン式露天風呂「ドツォ」がある。焚き火で真っ赤に焼いた石を木製の浴槽に沈め、お湯にするブータンの伝統的な風呂だ。川の近くなど、水の便の良いところに据えて入る露天風呂である。川沿いをやや下ると右手に壮大なクジェ・ラカンが見えてくる。周囲を108の純白のチョルティンが囲んでいる。108本のダルシン(経文旗)もはためいている。この寺院は王室との関わりが深く、3代国王の葬儀もここで行なわれ、その際に宿泊したインドのインディラ・ガンジーの建物もある。中央の建物は初代国王ウゲン・ワンチェクによって建てられたという。岩場を登ると聖水が流れ出ている。この地域に悪病が流行った時、この水を飲むとたちどころに治ったという霊験あらたかな水のようだ。大勢の人がこの聖水を汲みに来ている。体を洗っている人もいる。岩に文字や仏画が刻まれている。ブータン人が釈迦同様に崇めているパドマサンババがこの岩場で瞑想している時の影(クジェ)がこの寺院の名の由来となったという。

川を下っていくと王妃別荘の対岸に国王のゲスト・ハウスがある。その静かなたたずまいを過ぎると広々としたジャガイモ畑が広がっている。そして右手に深夜の裸踊りで有名なジャンバ・ラカンを過ぎると次第に町中に入っていく。足腰の痛みを覚える。ブムタン病院の路地を牛の糞に気遣いながら進むと川下のつり橋だ。ジャカール・ゾンを背にしながら渡るとスイスチーズ工場がある。かつてスイス人が酪農の指導に来ていた時建てたものだ。山道を登るとかつてのスイス人技術者の寄宿舎が、今はスイス・ゲスト・ハウスとしてホテルになっている。スイスの山荘といった感じだ。生ビールがうまい。私の住居にしようと思ったが、オーナーと折り合いがつかず止めたところだ。この一帯は農業省の施設が多く、我々の事務所もこの山の手にある。牧場のなかの道を、牛をかき分け進むと我が家タムシン・ロッジだ。

風が強くなってきた。空の青に白い冬雲が筋状に走っている。8キロ3時間、川上川下の2つのつり橋を挟むチャムカル川周遊の散歩であった。腰と足の痛みをこらえて這いずるように戻った。
ツェリンがポンコツの小型ワゴン車を修理中だ。ギヤを入れると後ろに走ってしまうという代物だ。しかし何とか直ったとのことで、「明日、家族全員でピザを食べに行こう」ということになった。翌日12時、子供たちと7人、ポンコツ車に乗り込む。定員オーバーである。運転はツェリン、無免許だ。モンちゃんは小坊主らしく僧衣をまとっている。サンゲイはキラを着込み、何時もよりちょっと綺麗だ。一軒しかないピザ屋に向かっていざ出発。決して洒落た店ではない。味も形もピザではあるが、匂いはどうもブータンだ。サンゲイはピザが苦手とあって、モモ(ブータン風餃子)を注文する。次はアイスクリームだ。店を色々当ってみるが、全て在庫切れ。やむなくケーキに転向。ベーカリーに向かう。売れ残りの型崩れケーキで我慢する。「モンちゃんの僧院に行こう」ということになり、山を登り始めると、ツェリンが「ガソリンが足りない、次回にしよう」と言い出す。ガソリンを入れ直し、再度モンちゃん僧院に向かう。ナムケ・ニンポ・ラカンといって、町を見下ろす高台にある。仏教学校も併設したなかなか立派な僧院である。モンちゃんが車から降りようとしない。どうも尻込みをしているようだ。モンちゃんの部屋を確認する。3人部屋だった。

ガソリンが入った勢いで、湖にゆこうということになる。湖があるという話は聴いたことがない。タン谷の入り口にあり、メバル・ツォという。「ツォ」は「湖」という意味であるが、渓谷といった感じだ。多少池らしくはなっているが、湖とはとてもいえない。ペマ・リンパが水底から経典や宝物を拾い上げたという伝説があるそうだ。今でも信仰の対象となっている。我々もバターオイルのろうそくを流してみた。
定員オーバー7人、無免許で、壊れかけたテープを聴きながらブータンの訳の分からない歌を歌いながら、何とか無事戻ることが出来た。何とも危険な、しかし愉快な1日であった。

    

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