まもなく新学期

平成19年2月8日
 
 3ヶ月に及ぶ冬休みも、まもなく終わろうとしている。ツェリンとモンちゃんはタシヤンツェへ巡礼の旅に出たまま、まだ帰ってこない。

 それにしても、この家族は実に不可解だ。5ヶ月巡礼の旅に出たまま帰ってこない父親は、実は再婚である。ツェリンとモンちゃんが実の子だ。モンちゃんが生れてまもなく、母親は亡くなった。新しく奥さんになった人は20歳年下である。その奥さんはケンちゃんとテンちゃんの母親である。要するに連れ子なのだ。しかしケンちゃんとテンちゃん、全く顔が似ていない。話を聞くと、2人とも父親が違うのだそうだ。ケンちゃんの父親は今ティンプーに住んでいる。テンちゃんの父親はこの町の川向こうに住んでいる。この奥さんにすれば、再再婚ということになる。しかしこの4人の子供たち、何のわだかまりもなく暮らしている。それにサンゲイだ。この子は奥さんの姪に当たるとのこと。家族全員、タシヤンツェの出身で日常はシャショッパ(ブータン東部の方言)を話している。なんとも不思議な家族である。不思議というよりは奇妙である。

 テンちゃん、モンちゃん、ケンちゃん。それぞれ父親が違うこの3兄弟。やはり性格も3人三様である。テンちゃんは外遊びより、家の中で静かにしかも母親のそばにいるのが好きなようだ。モンちゃんは決してじっとしていない。物つくりが好きだ。作った車で毎日「ウ〜ウ〜」とドライブである。1人遊びが好きなようだ。ケンちゃんは一番年下でもまれているせいか、勝気で誰とでもうまく付き合える。それをうまくコントロールしているのが、働き者のサンゲイである。ツェリンはサンゲイに叱られながらも、ペニスハウスの友達のところへ逃げ出し、飲めない酒を飲んで憂さを晴らしているようだ。この子供たち、プロレスが好きで、よく私の部屋でテレビを見ている。一番興奮するのがサンゲイだ。女の子のほうが戦闘的なのかもしれない。帰った後部屋が汚れ、何となく嫌な臭いが残るのには閉口する。

  


 さらに犬と猫と牛がいる。犬は黒犬でブランカという。人様より立派な名前だ。この犬、最初は私を見ると「ウ〜ウ〜」と唸っていたが、最近は私を見つけると飛びついてくる。あまり綺麗な犬ではないので、飛びつかれるとズボンが汚れて困っている。しかし番犬の役割は十分に果たしている。見慣れぬ人が来ると威嚇し、見えなくなるまで追いかけていく。牛が逃げ出すと手綱をくわえて、連れ戻しもする。なかなか賢い犬である。猫は何の役にも立たない。ストーブの周りに寝転び、私が食事をしていると膝に飛び乗り「ゴロゴロ」と猫なで声を出し甘えている。時々私の部屋に侵入し、布団の上で寝ていることもある。なんとも役立たずの猫であるが、皆の寵愛を受けている。鼠の鳴き声は聞かないので、多少の役に立っているのかもしれない。牛はまだ未経産だ。サンゲイが世話役である。この馬鹿牛、何時もどこかに行ってしまう。そのたびにブランカが連れ戻してくる。いつか牛乳を一杯出してくれるであろうという期待を背負って、大事に育てられている。しかし白い牛で、あまり乳を出しそうもない。

 冬休みも終わりに近づいた節分に、「鬼は外、福は内」と鬼の面と桃太郎の面を被って一心不乱に豆まきをした。年の数だけ豆を食べ、そのいわれを教えてあげた。ケンちゃんはこの桃太郎面が気に入ったようで、夕方になるとこの面を被って現れる。「鬼をやっつけた桃太郎は強いんだ」と教えたおかげで、この面を被るとやたら凶暴になる。健康のため、毎朝木刀を150回振ってから出勤しているが、最近、ケンちゃんが見様見まねで木刀を振り始めた。まだまだ薪割りのような格好だが、いずれブータン初めての豆剣士の誕生となるかもしれない。期待している。

  


 2月20日から新学期が始まる。長い、長い冬休みも終わりを告げようとしている。この子供たちから漸く解放され、静かな日々が送れるものと期待している。しかし、この不可解な家族との付き合いはこれからも続く。



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