ペニス踊り
 
平成18年11月1日


 ブムタン県は、7世紀前半にチベットから仏教が伝えられると同時に、多くの寺院が建設され、ブータン仏教の聖地とも言われている。チベット仏教の流れを汲むブータン仏教は歴史的には後期密教に属し、チベットが中国に併合されてからは唯一ブータンが密教国家として存在している。その神秘的思想や性的要素の導入など、日本の密教とは趣を異にしている。
 ブムタン県の県都ジャカールにあるジャカール・ゾンの祭りが10月末に行なわれた。街は休日である。
 タシ所長が迎えに来る。普段着で行こうとするとタシが駄目だと言う。ネクタイが必要だというのだ。やむなくアスコットタイで出かける。1ヶ月前に運転免許証の有効期限が切れている。警察が出ていないか気を使いながらジャカール・ゾンに向かう。このタシ所長、年齢は37歳、ドクターである。ブータンは高学歴の比較的若い人たちが官僚の中枢を占めている。タシもエリートであることには間違いない。子供は1人、女の子、3歳である。奥さんは12月に出産とのことで、ティンプーに出産前検診に行っている。「男の子が欲しいだろう」というと「どちらでもいい」と負け惜しみを言っていた。タシの兄は、シェムガンの県知事である。  

 既に祭りは始まっている。入るなり真っ赤なお面を被った道化役のジョーカーが妙なものを差し出す。受け取り、タシにこれは何だと聞くとコンドームだという。いきなりコンドームとは驚いた。2階に通される。そこにはラマ大僧正と国会議員、県知事などお歴々が鎮座している。以前皆会った顔ぶれなので気は楽だ。私の隣に知事婦人が座り、片言の日本語で話しかけてきた。日本に5ヶ月いたそうだ。踊りも佳境に入ってくる。先ほどのコンドームのジョーカー、相変わらずコンドームを配ったり、ペニスの木彫りを踊り子に突きつけたり、悪さをしている。外人観光客も多い。老婦人は顔を背ける場面もある。この国は性と宗教が一体になっているようだ。性が宗教化されているのかもしれない。まさにペニス・カントリーである。チベット舞踊のようなもの、十二支のお面を被った仮面舞踏などラマ教を思わせる奇怪な踊りが展開される。リズムは極めて単調、楽器はホルンのような長い角笛を「ヴォー、ヴォー」と吹き、シンバルのようなものを「ジャーン、ジャーン」と鳴らす。そして踊りながら太鼓を打ち鳴らす。リズムも単調だが、踊りも単調である。その合間に若い女性による民族舞踊、いわゆる民謡だ。これまた歌いながらではあるが極めて単調。ここぞとばかりにペニス・ジョーカーが木彫りペニスでうら若き踊り子をつつきまくる。しかしこのうら若き踊り子たち、無視しているのか恥ずかしさをこらえているのか、無表情で踊っている。
 昼飯時、女性が入れ替わり立ち代りお菓子やキャンディーを持ってくる、手が一杯である。さらに僧侶らしき人が果物を持ってくる。サトウキビの切れ端まで持ってくる。これもブータンのカスタムなのかもしれない。やがて昼食。大僧正に勧められ、皿に用意する。しかし大僧正が箸をつけないことには、誰も食べ始められない。腹ごしらえが済んだので、早速退散。
 帰りがけ、尿意も催したこともあり、ホテルで久々にコーヒーを飲む。ブータンのコーヒーは大体インスタントだ。決して美味しいとはいえないが、紅茶に飽きていたので味わって飲んだ。外人ばかりだ。しかも中高年。最早世界中見尽くした連中なのだろう。それともラマ教のペニス文化に関心があるのだろうか。ブータンに来て1ヶ月。髪の毛も伸びてきた。床屋に入る。15分で終わるとのことで、タシも待っていてくれた。確かに頭を濡らし、カットして襟足をそるだけだ。日本のクイック・バーバーと同じだ。40ニュルタム、日本円で100円である。気に入ったカットとはいえないが、「グッド」といって出てくる。「郷に入れば郷に従え」だ。
 しかし今日は、宗教と性の因果関係を強く感じた1日であった。


         


                          >戻る