エクアドル便り101号
エル・ランチョのセサール君
リオバンバのマジョリスタ市場には色々な店が入っている。雑貨屋、洋服屋、CD屋、靴修理屋、健康食品に飲料店、食堂、歯医者、市の出先事務所など様々だ。しかし長続きする店は少ない。雑貨屋のあとにハム屋が入ってきた。初日に店先でハムをチミチュリとマヨネーズで和えたソースにつけ、試食販売を行っていた。立ち寄り試食してみた。ハムが美味しいというよりはソースが美味しかった。若いお兄ちゃんとおばさんがやっていた。翌日その味にひかれて、ハムとチミチュリソースを買った。以後時々ハムやソーセージを買いに行く。値段はスーパーより安い。しかし筋が多く、味も飽きてきた。
エル・ランチョ スーパーの食品売り場
バスコと聞いて、アルゼンチンのエチェベリア博士を思い出した。何時もバイクを乗り回し、髭を生やし、背は低いが精悍な男だった。何度かバスコ人町に案内されたことがあるが、何となく戦闘的で文化も言語もスペインとは違う感じを味わった。エチェベリアはバスコに多い苗字のようだった。セサールからはその精悍さは感じられない。
バスコはスペイン北東部に位置し、カンタブリア海に面し、ピレネー山脈を挟んでフランスに接している。冬は温暖で夏は涼しく多雨で緑が多い。バスコ地方は、ピレネー山脈を挟んで80%がスペイン領、20%がフランス領となっている。バスコ人はフランス人ともスペイン人とも異なる独自の文化と言語を持っている。バスコ語は他のいかなるヨーロッパ語とも共通性を持っていないという。バスコ・ナショナリズムを形成している。スペイン語ではバスコだが、フランス語ではバスクとなる。
バスコ人は、1593年までナバラ王国として独立を保っていた。スペイン王国に併合されても「バスコ祖国と自由」を結成し、過激な活動を展開している。1979年にバスコに自治権が付与された。強固な民族的団結を保ち、歴史のあらゆる局面で独立を守ってきた。独立意識が強く、今でもスペインからの独立を夢見ている誇り高き民族である。しかしセサールにはそれを感じない。時代の流れかもしれない。バカラオ・アル・ピルピンが有名な料理だそうだ。特色は、巧みなソース使いにあるといわれる。
今日本では消費税論議が盛んだが、エクアドルの消費税は12%だ。高いように思われるが、食料品や生活必需品は課税されていない。スーパーに行くとレシートに課税品と非課税品が打ち出されている。もちろん牛乳や乳製品、ハムなどの肉製品も非課税である。特に南米は公的機関の医療費や教育費も無料であり、生きる基本のところはしっかりと保障されている。
消費税はフランス大蔵省の官僚モーリス・ローレが考案した間接税の一種だ。欧米では付加価値税もしくは物品税と呼ばれている。一般消費税が初めて導入されたのは1954年のフランスだった。日本は1989年に税率3%で導入され、1997年に5%になった。世界では145カ国が導入している。フランス19.6%(但し食品は5.5%)、イタリア20%(同10%)、ドイツ19%(同7%)、イギリス17.5%(同0%)とEUは20%前後が多い。デンマークとスウェーデンは25%で最高の税率である。しかし先進国の大半は、市民生活に負担がかからないように食料品などの生活必需品とそうでない商品とは税率を分けている。生活必需品は概ね5%以下である。アメリカは消費税を導入していないが、州毎に売上税がある。アジアは10%前後が多い。中国は17%だ。
日本は全て一緒くたに5%である。年金暮らしのおばあちゃんが買う大根1本も、社長の道楽息子が買うフェラーリも一律だ。ここに「消費税は庶民いじめのボッタクリ税」と言われる所以がある。日本はEUに比べ消費税が低いと言われるが、それは当たらない。EUの高税率に市民から不満の声が上がらないのは、市民生活に配慮した生活必需品の低税率にある。財政破綻の危機にある日本は、財政再建が緊急の課題であることは言うまでも無い。国税に占める消費税の割合は25%だという。しかし、40兆円の税収で80兆円の予算を組むところに無理がある。10%でも15%でもかまわないが、庶民の生活を圧迫しないように生活必需品の税率は5%以下に押さえるべきであろう。そこをしっかり説明しないで税率ありきの議論をするから、この度の参院選の民主党の大敗に繋がる。しかしその前に行政改革などやるべきことは沢山ある。それを国民は許していない。
エクアドルは決して豊かではない。貧しいながらもセサール君のように新婚生活を楽しみ、仕事はやっているのかやっていないのか解らないが、何となく生活している。貧しくても、生きる人間の基本的人権は守られている。
今日もまた店は閉まっていた。暫くセサール君に会っていない。
平成22年7月23日
須郷隆雄