エクアドル便り102号

虹のロハから汗だくサモラへ

 

 朝7時半にリオバンバを出発し、ロハに向かった。バスに揺られて6時間半、午後2時にかつて語学研修で1ヶ月滞在したクエンカに到着する。ロハ行きの切符を買うと、発車は2時とのこと。最早時間が無い、トイレに駆け込み、バスに飛び乗った。お世話になったサルトス宅の近くを通過する。懐かしい風景だ。やがて山また山を越え、天上の町アニャを通り過ぎる。雲に手が届きそうだ。山並みの道は何時しか雲間に吸い込まれ、そのまま銀河鉄道999のように銀河系宇宙へ迷い込んでしまいそうな錯覚に襲われる。インディヘナの町サナグロを過ぎるとロハの方角に大きな半円形の虹が懸かっていた。夕闇迫る6時半、ロハに到着した。バスに揺られること11時間の長旅だった。

 ロハはリオバンバから455km南にあり、ペルーに接するエクアドル最南端の町だ。標高2100m、人口12万人、エクアドルで最も古い町の1つと言われている。キトからペルーのクスコに通じる町として、1548年に「インマクラダ・コンセプシオン・デ・ロハ」という名で誕生した。サモラ川とマラカトス川に挟まれた静かな佇まいの歴史の町である。

 サモラ川とマラカトス川の分岐する場所に、市の入り口を象徴する凱旋門がある。1571年にスペイン国王フェリペ2世から授与された軍の紋章に描かれた城を再現したものと言われる。そこからシモン・ボリバル通りが南へ一直線に延びている。そのメイン通りに沿って歴史遺産が目白押しに並ぶ。先ずロハの設立に由来するアロンソ・デ・メルカディジョの像とサン・フランシスコ教会があった。2ブロック行くと中央広場に著名な教育者ベルナルド・ヴァルディヴィエソ像とシスネのマリアが8月20日に運ばれてくるカテドラル、マトリス教会がある。更に2ブロック歩くと連邦広場に出る。連邦政府の指導者マヌエル・カリオン・ピンサノ像とサント・ドミンゴ教会だ。3ブロック先に1820年12月18日スペインからの独立を宣言した独立広場があり、32mの独立記念塔が立っている。白亜のサン・セバスチアン宮殿もあった。宮殿の空にまたもや大きな虹が懸かっていた。若者たちが「ウォ〜」と歓声を上げ、シャッターを切っている。ウミータを食べながらボリバル通りを更に南へ歩くとロハで最も古い通りロウルデ通りと交差する。この辺りで疲れと共に歴史散歩も大体終焉となる。川に挟まれた世界遺産クエンカの佇まいによく似た古都のような街並みであった。

 ロハは意外にもコーヒーが有名だそうだ。ウミータやボカディージョも人気ものと聞く。夕食は当地名物の豚肉の塩焼きセシーナを食べてみた。かなりの量だが、ビールのつまみにはうってつけだ。

  

       独立記念塔(ロハ)              ポデロサの滝(サモラ)

 翌朝、サモラに向かった。ロハの東64kmにあるオリエンテの人口1万弱の小さな町だ。しかしサモラ・チンチペ県の県都である。山あいの道を蛇行しながら下って行く。次第に植生が変わり、蒸し暑くなってくる。

駅前に南米一というどでかい時計が斜面に設置されていた。時間は一応正確だった。エクアドルには時計が少ない。有っても止まっているか狂っている。あまり時計を必要としていないようだ。なのに何故このような大きな時計を作ったのか不思議だ。観光用と思うが住民は必要としていないだろう。トイレ番の女の子たちに「サモラの人口は」と聞くと「知らな〜い」と声を揃える。1人が何処かへ聞きに行ったようだ。「3000人」と答える。そんな筈はない、少なくとも県都だ。何処へ行っても自分の町の人口を知っている者は殆どいない。生活に人の数は関係ないようだ。中央公園の教会の中は結構涼しい。人は誰もいない。オリエンテには、スペイン統治時代の重厚な教会はない。

サモラはカエル料理が名物だと聞く。早速カエルを注文した。クエンカでクイ(テンジクネズミ)の姿焼きがご飯の上にドンと出てきた時はびっくり仰天したが、筑波山麓四六のガマのようなやつが姿焼きで出てくるのか、期待と不安で待ち構えていた。出てきたのはカエルの手と足のフライだった。味は鶏とほぼ同じ。がっかりである。カエルの正体を見てみたかった。

トラックタクシーに乗り、ポドカルプス国立公園に向かった。一般のタクシーではこの山道は無理のようだ。トヨタのハイラックスだ。鬱蒼とした山道を、息を切らして登る。野性ランが木にへばり付いている。一瞬大きな雷。木の橋を渡り、ポデロサの滝に向かう。蝶や鳥を見かけない。先ほどの雷鳴で何処かへ雲隠れしたのかもしれない。汗だくだ。久々に健康的な汗をかいた。ささやかな野性ラン園らしきものもあった。それほど代わり映えのする滝ではないが、汗だくの体に水しぶきが心地よい。マイナスイオンの空気を胸一杯に吸い込む。一時水と戯れ、慌しく帰途に就く。最早、山の管理員も帰宅するところだった。

ポドカルプス国立公園は極めて多様な植生を有し、針葉樹やマキの群落でも知られ、ポドカルプスの名の由来になっている。ランの種類も多く、鳥類も多種だ。ベルリンにあるライプニッツ研究所のカトヤ・レックス氏の研究チームによると、30種のコーモリも生息していると言う。コーモリはカエルや昆虫が好物だそうだ。カエル料理が名物だが、コーモリが食糧危機に陥らない程度の捕獲に留めておいて欲しいものだ。

6時15分発のつもりで買った切符が4時10分発になっていた。交渉するが応じる気配が無い。苛立つ気持ちを抑えながら何とか空席を確保し、汗だくのサモラを後にした。

 

平成22年7月28日

須郷隆雄