エクアドル便り13号

職場の愉快な仲間たち

 

 私の職場は県庁から歩いて10分程のところにある。JICAからの紹介では、個室がありコンピューターも用意されているとのことであった。しかし聞くと見るとでは大違い。個室どころか、僅かな空間に丸テーブルを囲んでプラスティックの椅子があるだけ、電話もない。コンピューターはかろうじてあるが3人の共有。カーテンもなく、裸電球が1つ。トイレは水が流れず、お茶セットすらない。とても事務所といえる代物ではない。県庁やCESA(NGO;エクアドル農村振興協会)の事務所を渡り歩きながら日々の仕事をこなしている。

 毎朝、こちらから電話をして「何時に何処に集まるんだ」と確認しないとその日の仕事が始まらない。しかし時間もルーズで、私が待つことのほうが多い。炎天下の路上で待っている時は、「もうやめた、帰る」という気分にもなる。そんな時、店の可愛い子ちゃんが「ここで待ってたら」と店の中に招き、椅子を用意してくれることもある。今やその子とは親子ほどの年の差はあるが、良き友達だ。1週間の予定は提示するようになったが、時間が定まらない。「家で待ってるから、決まったら電話するように」ときつく注意してから、先方から電話が来るようになった。それまで、自宅で待機している。

 

愉快な仲間(左端カルロス、2人目ホセ、5人目ルイス)

  

      
良き友アニータ

 事務所の不備な分、仲間の3人はいい加減だが愉快な連中だ。配属先は県庁ということになっているが、勤務先はチンボラソ乳製品組合という。チンボラソ県内の8会員を傘下に、農民参加の37の小さな乳業工場を統括している。勤務時間は8時から6時まで、昼休みが2時間ある。しかし時間は有って無いようなもので、気ままにやっている。職務はマーケティングということになっているが、ようは何でも屋だ。この愉快で、いい加減な仲間たちと傘下の会員や乳業工場を巡回している。

 仲間は組合長のホセ、カウンターパートのカルロス、それに資金提供団体であるCESAのルイスだ。

 ホセは住まいがセバダといって、リオバンバからバスで1時間ほど離れたところにある。そのため事務所に顔を出すのは週に1回ほどだ。普段は会員回り、特に農家集会などに顔を出しているようだ。野球帽を被り、真っ黒な顔をして組合長という風貌はない。しかしよく喋り、よく笑い、陽気なおじさんだ。年は40歳といっているが、信じられない。しかしよく見るとそうかもしれない。ここの国の人は一般に老けて見える。私が62歳だというと大体皆びっくりする。小柄で、腕っ節の強そうな頑丈な体をしている。

 カルロスはまだ28歳の青年だ。時々大学にも通っている。「まだ結婚しないのか」と聞くと、「仕事が趣味だ」とラティーノとは思えない答えが返ってきた。「ノビアは」と聞いても「いない」とそっけない。しかし、薬指に大事そうにかまぼこ型の指輪をしている。やはり愛する人がいるようだ。アルゼンチンで買った銀の指輪をあげると、これをまた小指につけている。日本に強い関心を持っていて、日本語を聞きたがる。「うし、うま、ぶた、いぬ」「ありがとう、さよなら」とだいぶ覚えてきた。うちの息子と同じ28歳だが、なかなかしっかりして頭も良さそうだ。大学では乳製品の製造技術を学んだとのこと。会員を相手にしっかりと話し、指導し、信頼も高い。

 ルイスはリオバンバ市内に住み、リーダー格だ。計画、資金等を管理し、ここの活動を概ね統括している。車は1台貸与されているが、その運転係でもある。私の席は決まってルイスの隣だ。後ろにホセとカルロスが座る。何時も、何か独り言のように喋っている。そのせいか、なかなか演説はうまい。着任初日に、事務所のひどさに文句を言うと、午後にトイレットペーパーやら洗剤を買ってきて掃除をしていた。掃除係でもある。以前はオリエンテのほうに住んでいて、この地はまだそれほど長くはないとのことだった。家庭を大事にする51歳である。

 彼らは遠慮も無く、早口でスペイン語を話す。理解しないまま、すれ違いの会話を勝手に話している。訳の解らないうちに、何となく解ったような気分になり「やーやーやー、わっはっは」で1日が終わる。何とも暢気な、愉快な仲間たちである。

 

平成20年12月15日

須郷隆雄