エクアドル便り16号
フェリア
CESA(NGO:エクアドル農村振興協会)の主催でフェリアがCESAの広場で行われた。フェリアとは日本語で言えばフェアといったところか。CESA関連の団体が出品し商品紹介をする農産物フェアだ。
エクアドルは1979年に国家農村開発プログラムを打ち出し、小農を対象に農村開発を展開した。しかし、間もなく経済不況に陥るとこのプログラムは停止となった。農村部から撤退した国家に変わって農村開発の場に登場したのが1967年に設立された「解放の神学」を唱えるカトリック系のNGO、CESAだ。
我が乳製品組合もこれに参加した。今回が2回目の開催だ。仲間は7時から準備に追われている。私は9時ごろ、のこのこと出かけた。しかし手持ち無沙汰だ。やむなく事務局が配るテーブルクロスの手伝いをする。子リャマが1頭、着飾って繋がれている。手を出すと怖がって逃げ惑う。町の雰囲気に馴染め無いようだ。可笑しな5人組もやってくる。手伝う気は全くなさそうだ。
我がチームはチーズを並べ終え、準備完了。チーズを使ったサンドイッチの試食販売も行っている。フォンジューもやる予定だったが、私の手違いでこれは中止。色々なものが出品されている。一店一店丁寧に見て回る。石臼で大麦を挽いている。日本なら石臼を回して挽くのだが、ここは洗濯板のように前後に押して挽いている。飴を伸ばしている。まるでそば職人のように伸ばしては木に掛け、そしてまた伸ばす。なかなか上手いものだ。オリエンテから来たというおじさんが、薬草を売っている。葦のような草の茎を食べさせてくれる。何だか解らないが胃に良いそうだ。色々な薬草を紹介してくれる。医者も薬も無いところでは、薬草が命の綱なのだろう。インディオのおばあちゃんがソラマメやインゲンなどの豆類を売っている。「日本のソラマメと一緒だ」と話していると、1袋プレゼントしてくれた。ジャムの店。色々なジャムを試食させてくれる。「農薬は使っていない。全てオーガニックだ」と説明する。エクアドルは概ね自然栽培、多分オーガニックであろう。赤かぶジャムを1瓶所望する。旅行代理店も来ている。パンフレット、冊子、ポスターを手当たりしだいにねだる。インディヘナのマネキンの男女に囲まれ、写真を1枚パチリ。隣はアルパカの手織物。また風の又三郎が関心を示す。「うちの母ちゃんにどれが良いかな」、「飛んでる母ちゃんだから、派手目が良いんじゃないの」と言っても、地味目に目が行ってしまうようだ。子リャマが慣れてきたのか、皆の寵愛を一身に受けている。後ろの店ではリャマの肉料理が売られている。大小沢山のクイが展示されている。これまた裏ではクイの丸焼きが売られている。何とも残酷なのは人間ばかり。昼食券が渡され、並ぶこと30分。出て来たのがクイのお頭2つ。とても食べれたものではない。
風の又三郎も退屈気味。若石怪人に変身する頃でもある。足マッサージの開店だ。旅行代理店とアルパカの毛織店の娘っ子を照準に定める。結構な人気である。キャッキャと言って喜んでいる。怪人の腕もなかなかのものだ。その間私は、アルパカ屋の娘を相手にお喋りだ。「何年生なの」「6年生」「何が得意なの」「算数」、意外な答えだ。「歌は嫌いなの」「好き」「何か歌って見て」、賛美歌を歌いだした。これもまた意外だ。「日本の歌、何か歌って」、これには参った。やむなく「結んで開いて手を打って結んで」と手振りを入れて教えると、合わせて歌ってくれた。孫と遊んでいるお爺ちゃんといったところだ。相変わらず怪人はマッサージに没頭している。若い子に囲まれ、ご満悦のようだ。
そろそろ閉会式だ。ポケットに手を入れるとカメラが無い。一瞬ドキリ。浮かれていたので罰が当たったのか。思い当たるところを隈なく歩くが無い。椅子に座っている人たちも立たせて探すが、無い。諦めかけて、アレクシスに話すと、カルロスが持っていると言う。思わずカルロスに抱きついてしまった。それにしてもこのカメラはしぶとい。アルゼンチンで1度無くし、イグアスの滝で水が入り、液晶が壊れ、今回もまた無くし、しかしこうして手元に戻っている。不思議な因縁を感じる。いずれこのカメラの供養でもしなければなるまい。一等は300ドルと聞いていたが、感謝状1枚で終わった。
帰りがけ、怪人と中華屋に入った。ワンタンスープとビールを1本。熱かったこともあり、この怪人、日頃飲まないビールを一気に飲み干した。突然目をむいたまま倒れこんできた。「おい、どうした。大丈夫か。」肩を揺すっても目をむいたまま。心臓麻痺かとびっくりしたが、暫くして我に返った。「いや〜、低血圧なので貧血だな」と怪人。いやはや、カメラを無くしたり、目をむいたり、とんだ結末だった。
フェリアは一体なんだったのか。これもボランティアと思いつつも、このような頓珍漢な日々を過ごしている。
平成20年12月25日
須郷隆雄