エクアドル便り17号

いい湯だな

 

 朝から雨。エクアドルに梅雨があるとすれば、今かもしれない。

 エクアドルはアンデス山脈が縦走しており、活火山も多く、当然温泉も多い。リオバンバから北東に活火山トゥングラウアがある。標高5016mだ。その麓にバーニョスがある。バーニョスはその名が示すとおり温泉町だ。梅雨空には温泉が似合う。

 おんぼろバスに揺られること2時間、そこは温泉町バーニョスだ。ここから更に2時間ほどでアマゾンの入り口、プヨである。そのため、アマゾンツアーやトゥングラウア登山のバックパッカーの格好の待機所でもある。適度に観光化された、山に囲まれた静かな居心地の良さそうな町だ。

 駅の近くの旅行代理店に入る。かわい子ちゃんが暇そうにしている。早速温泉のありかを尋ねる。なかなか感じのいい子だ。滝の横にある「ビルヘン」という温泉と川を越えたところに地元の人か良く行く温泉があるとのこと。入浴料はどちらも2ドル。名前と滝に惹かれてビルヘンへ行くことにした。

 

            聖母の湯


 

      温泉町バーニョス

 入り口に「ピシーナ・デ・ビルヘン」と書いてある。聖母プールなのだ。南米には日本のような温泉場は無い。温泉はあっても大概がプールに温泉が張られているといったものだ。温めのプールとやや熱めのプールがある。温めは餓鬼どもで大賑わいだ。それを避け、熱めの方へ。それとなくかわい子ちゃんの近くに身を沈める。露天だ。周りの山が雨雲で煙っている。100m以上はあろうか、細い滝が勢い良く流れ落ちている。やはり温泉だ。草津の湯とはいかないが、エクアドルの湯だ。

 欧米系もちらほらいるが、やはり地元の巨大なお尻と大きなおっぱいの浅黒いご婦人が多い。それはそれとして、茹で上がるほど異国の温泉を堪能した。「いい湯だな。ハハ〜ン。ここは南米エクアドルの湯」と口ずさんでいた。

「滝の音水着で入る聖母の湯」 

「胸の谷横目でチラリ湯の煙」

エクアドルは春分の日と秋分の日がそれぞれ春と秋。それ以外は冬と夏。しかし温度差は1日の朝晩のほうが大きい。ようは春夏秋冬が無いのだ。よってエクアドル風に無季語句とした次第。

 バーニョスは標高1820m。リオバンバより1000m近く低い。温泉のせいだけではなく、何となく暖かい。南国的感じもする。町の中心に立派な教会もある。外人観光客も多い。ラフティングや乗馬、マウンテンバイクの店も多い。バックパッカーの町なのだろう。

 旅行代理店のかわい子ちゃんに挨拶して、また、おんぼろバスに乗り込む。私の席に先客がいる。「そこは俺の席だ」と言ってもどく気配が無い。車掌に「ダブル・ブッキングか」と聞くと、「途中で乗ってきた客が座ってしまった」と言う。争っても仕方が無い。エクアドルにはエクアドルのルールがあるのだろう。しかし、揺れの激しいバスに立っているのはかなりきつい。手すりもつり革も無い。途中で座れたが疲労困憊でリオバンバに戻った。行き付けの床屋を覗くと客は誰もいない。これまた暇そうにしている。「バーニョスに行ってきた」と言うと「バーニョ」と勘違い。丁寧ではあるが腕は今ひとつだ。美容院でもある。エクアドルは大概美容院でもあり床屋でもあり、男女共用だ。上手でもないのに行き付けにしているのは、色は黒いが何となく美形の美容師に原因がありそうだ。湯上りの頭もさっぱりした。しかし空は相変わらずどんよりと梅雨空だった。

 

平成20年12月30日

須郷隆雄