エクアドル便り21号

最高峰チンボラソ

 

 エクアドルの「火山通り」、その最高峰、チンボラソ山に挑んだ。標高6310mだ。19世紀初頭まで世界で一番高い山とされていた。世界で一番高い山はいうまでも無くエベレストだ。しかし、赤道近辺のほうがエベレストのある場所よりも地球の半径が大きく水位も高い。標高ではエベレストのほうが2550m高いが、地球の中心からの距離ではチンボラソのほうが2100m上回るそうだ。よって、いまでもチンボラソこそ世界で一番高い山と言って良いのではなかろうか。

 7時30分発のバスに乗る。タイヤの修理をしている。大丈夫かと不安になる。「グアンテス、グアンテス」と手袋売り。山行きのバスは売るものも違う。薬草のパンフレット売り、よく喋る。買う気もないので、ただうるさいだけ。隣のおじさんが話しかけてくる。チンボラソへ行くことを伝えると、色々説明してくれる。帰りに「カーサ・コンドル」に寄るよう誘われる。どうもカーサ・コンドルの従業員のようだ。そのバス停で降りていった。カーサ・コンドルはインディオのコミュニティーで、手工芸品などを売り、博物館にもなっている。一度行ってみたいとは思っていた。

 

              チンボラソ山

 

              リャマの家族

 チンボラソに近づくと、ピッケルを持った青年2人が降りていった。チンボラソ登頂にアタックするのだろう。「チンボラソ登山口はまだか」と聞くと「まだ先だ」と言う。青年が降りていったので、ちょっと不安になった。ようやく到着。バス停らしいものは何も無い。建物も無い。人も誰もいない。車掌が「道沿いに登っていけばいい」と言う。風が強い。かなり寒い。フードを被り、手袋をして登っていく。間直にチンボラソの雄姿が望める。晴天、雲ひとつ無い。涙と鼻水ずるずる。人っ子一人いない瓦礫の道を登っていく。空気が薄い。4000mは越えているだろう。息苦しさを感じる。リャマが寄ってくる。暫し休憩。パンを かざし、来るように手招きするが、一定の距離以上は決して近づかない。相手をしてくれるのはリャマだけだ。空を見上げても鳥1羽すらいない。生き物は他に、岩にしがみついた紫の花をつけた高山植物だけだ。しかし、風がやむと春のような暖かさが帰ってくる。山肌から蒸気が登っている。六根清浄お山は晴天。

 ただひたすら歩いては休む。次第にチンボラソが近づいてくる。下からランドクルーザーの旅行客が通り過ぎていく。山小屋が見えてくる。とにかくあそこまでと、息苦しさに鞭を入れる。山小屋だ。車が結構停まっている。歩いて登った者は他にはいない。ほっと一息。霊峰チンボラソに抱かれているようだ。小屋の親父に「どのくらいの高さだ」と聞くと、「4800mだ」と言う。富士山より1000mも高い。息苦しさとめまいを同時に感じる。暖炉がある。喫茶室がある。2階は宿泊用のロッジだ。心休まる空間だ。コーヒーを注文する。町ではとても飲める代物ではないが、体があったまる。ゆっくりと息を整えて飲む。豊かな気分だ。韓国青年が居眠りをしている。雪渓までは手の届く距離だが、今回はやめにした。次回まで取っておこう。2時間半の登はんだったが結構疲れた。

 麓は春霞のように霞んでいる。チンボラソにも雲がかかってきた。景色を堪能して帰ることにした。襟元かスースーする。襟巻きを忘れた。ロッジの親父が預かっていた。酸素不足で頭が呆けていたようだ。下りは快調だ。登ってくる車に手を振って挨拶する。リャマが遠くから見送っている。やはり歩いて降りていくものは誰もいない。しかし登山は歩きに限る。春霞に誘われて、「春のうららの隅田川」と口ずさんでいた。川は無いが、登山道が蛇行する川のようにも見える。若者の一団がマウンテンバイクで疾走して行く。麓に近づくに連れて風が強くなった。国道の入り口で管理員らしき職員に入場料として10ドルを請求される。不本意な気もしたが、環境保護のためだろうと快く応じた。

 バスも何時来るかわからない。カーサ・コンドルを訪ねてみようと国道を歩き始める。しかし歩けども、歩けども到着しない。ほとほと疲れて、道路脇でパンを食べながら水を飲んで休んでいた。幸運にもバスが通りかかり、手を上げ乗せてもらう。60代にしてはかなり無茶な計画だった。しかし、まだまだ精神年齢は40歳より若いと自己満足している。明日の体への反動は大きいのだが。

 

平成21年1月10日

須郷隆雄