エクアドル便り22号
ガンバレ!ニッポン
日本が大変な不況と聞く。派遣の解雇、更に正規社員への解雇、新卒の採用取消など、かつての「失われた10年」以上の社会不安と聞く。ソニーの1万6000人、トヨタの6000人の解雇を聞くと企業の責任とは一体何だったのかと疑問を覚える。
サブプライムから端を発した金融ショックは、リーマンショック更にトヨタ、ソニーショック、次はGMショックへと世界恐慌的不況へ突入していくと聞く。輸出の落ち込み、国内生産の低迷、雇用・賃金への影響、そして消費の低迷、業績悪化とスパイラルな負の連鎖へ突入したようだ。外需依存の日本経済の弱点を象徴している。
経営の神様と言われた松下幸之助は、「不況またよし」と言っている。「不況こそ改善、発展へのチャンス」と捉えていたようだ。「この不況を乗り越えるには従業員を半減するしかありません」との声に、「なあ、わしはこう思う。松下が今日終わるんであれば、君らの言うてくれるとおりに従業員を解雇したらいい。けれども、わしは将来松下電器を更に大きくしようと思っている。だから、1人も解雇したらあかん。会社の都合で人を採用したり、解雇したりでは働く者も不安を覚えるだろう。大をなそうとする松下としては、それは耐えられないことだ。みんなの力で立て直そう」。その具体的方法は、生産を半減、工場は半日勤務、しかし給料は全額支給、その代わり、全員休日返上で在庫の販売に全力を挙げるというものであった。従業員は奮い立ち、立ち込めていた暗雲は瞬時に吹き飛んだそうだ。
「肝をすえる」とも言っている。「松下の商いは3割減るだろう。2年間は利益が上がってこない。年間150億の利益があるなら、2年で300億、そのくらいは捨てよう。それで済んだら安いもんだ」「商いを落とさんようにしては、とても荒療治は出来ない。ひょっとして3年間分の利益を捨てなければならないかもしれん。しかし、元も子もなくなるよりはましだ」と覚悟を決めたという。後年、「不況は大暴風にさらされているようなもので、すこしも濡れないで行くという、そんなうまい方法は無い。そこは濡れるのも仕方が無い、そう覚悟を決めて、とにかくあわてずうろたえないこと、そうでないと出るべき智恵も出ず、かえって深みにはまりかねない」とも言っている。
「原点に返る」とも言っている。「企業はあくまでも本業に徹し、そこから適正利潤を得て資金を蓄積すべきであり、本業を通じて社会に貢献すべきであって、決して投機的に土地や株で儲けようということをやってはならない」と戒めている。
「責任は我にあり」「日頃が大事」とも言っている。日頃からお客に喜ばれる良心的な商売をし、きめ細かなサービスをしていれば、不況になればその良さが見直され、かえってお客が増える。「苦労は買ってでもせよ」と言うが、不況とはその苦労を買わずとも目の前にあるときである。
時代が違うよと切り捨てることが出来るであろうか。不況だからこそ光を放つ言葉のような気がする。PHP総合研究所主任研究員佐藤悌二郎氏の論稿を参照させて頂いた。
第44代アメリカ大統領バラク・オバマは、ケニア人を父親に持つアメリカ初の黒人大統領だ。DNA検査によるアフリカ系アメリカ人の平均的黒人度は80%を越えると言われる。つまり、アメリカ社会では異なる民族や人種間の結婚が進み、個人個人を民族や人種で区別したり規定したりすることが無意味になりつつある。アメリカ人は半ば冗談で、また半ば本気で、「アメリカ以外の世界はアメリカの一部であり、アメリカ人でない人はいずれアメリカ人になる」と言う。ケニア人を父親に持つ人物をアメリカのリーダーに選んだ背景には、こうした思想と信念があるからだろう。アメリカ経済の崩壊とも言われるが、ここにアメリカの自由な考えと実行に移すダイナミズムがあるように思う。
果たして日本人以外の父親を持つ人物が首相になる日が来るであろうか。島国ニッポンと言ってはいられない。ガンバレ!ニッポン。
平成21年1月15日
須郷隆雄