エクアドル便り23号

エクアドルの泥棒さん

 

 キトのホテルでタクシーを呼んだ。「バスターミナルまでいくらだ」と聞くと、運転手機嫌よく「メーターが付いている」と応える。安心して乗り込む。メーター付きのタクシーは初めてだ。しかしメイン道路を走っていない。何となく遠回りしているような気もする。しかし愛想のいい運ちゃんだ。リオバンバ行きのバス乗り場に一番近いところまで行ってもらった。「料金は」と聞くと、まがい物のメーターのようなものを取り出し、それを指差し「10ドル」と言う。通常は3ドル、多少手荷物があって同伴者がいても5ドルを越えることはない。何とも不届きな運転手だ。7ドルで手を打つことにした。ホテルが呼んだタクシーがこれである。油断もすきもない。

 

              カーニバルの乙女

 

         カーニバルの少女

 いつも乗るチンボラソ社のバスは出たばかりで45分待ち。やむなく他社のバスに駆け込む。リックサックを棚に載せていると、若い女性が手伝ってくれる。「イヤーどうもどうも有り難う」と感謝していると、男女4人組のグループが同様に我々の仲間の手助けをしている。ちょっと変だなと思いつつも、いつもの脳天気で、気にも留めていなかった。バスは出発する。仲間の1人が、「さっきの4人組がいない」と言う。リックを調べると、小銭かなくなっているとのこと。心配になりリックを下ろしてみるとファスナーが開いている。「一瞬ドキリ」。デジカメと電子辞書を手探りで確認する。無事だ。胸をなでおろす。深い因縁のデジカメが電子辞書を守ってくれたのだろう。いつも入れている成田山の厄除けのお守りが守ってくれたのかもしれない。日本に帰ったらお礼参りに行かねばなるまい。それにしても不幸中の幸いだ。

 もう1人の仲間は、何とパソコンと電子辞書がないと言う。これは大変だ。リックではなく、ショルダーバックに入れていたのが災いしたようだ。以前のバックはカッターで切られ、買い換えたバックでこの災難である。油断もすきもない。それにしてもパソコンをどのように持ち出したのか、さすがプロと変なところで感心してしまった。

 よく考えると、我々の後ろには乗客は誰もいなかった。泥棒さんは女1人を含む4人組。手荷物も多く、慌しく乗り込んだので棚に荷物を載せることに気が取られ、回りの情況判断が全く出来ていなかった。親切なお客さんもいるもんだ位にしか思っていなかった。脳天気といえば脳天気だ。極楽トンボと言っても良いかもしれない。いつ泥棒さんがいなくなったのかも解らなかった。泥棒4人組にとっては最高の情況設定だったに違いない。日頃から盗難には注意を促されているが、あってみないとなかなか実感が湧かないものだ。

 これでエクアドルが嫌いになった訳ではないが、何とも残念なことだ。4人組が得た利益以上に大きな損失をエクアドルに与えていることを、いつか解って欲しいものだ。

 リオバンバに住んでいると犯罪とは無縁のような気がしていたが、結構危険が身近にあるようだ。中南米では日本人10人に1人の割合で何らかの犯罪にあっている。エクアドルは6人に1人、ベスト5入りだ。殺人や強盗などの凶悪犯が22%を占め、窃盗犯は42%と日本の75%に比べると低い。しかし、窃盗犯の25%はバスなどでの乗り物盗だそうだ。それでも人口10万人当たりの刑法犯数は日本の半分だ。日本のように警察組織がしっかりしている訳ではないので、この数字だけで判断することは難しいが、最早日本も世界一安全な国とは言えないのかも知れない。

 泥棒さんにボランティアをする気はないが、これも一つの奉仕だと思えば気も晴れる。何処の国にもこのような犯罪はあるが、安全対策以上にこのような犯罪を生む社会にもっと目を向ける必要がある。

犯罪の実態を調べるとその国の社会情勢が解る。

 

平成21年1月20日

須郷隆雄