エクアドル便り26号

霧のアティージョ湖

 

 目を覚ますと最早6時15分。バスの出発時間は7時だ。顔を洗うのもそこそこに家を飛び出す。バス停で切符を買おうとすると「次は午後1時です」と言う。5時45分にバスは既に出ているとのことだ。事務所のホセの話では7時だと聞いていた。一体どういうことなのだ。ホセに電話すると「別のバス停からは一杯出ている」とのこと。やむなくそのバス停まで移動して乗ることにした。全く持ってしょうがない奴らだ。これでも組合長なのだ。同行のマリソルがいなかったら、そのバス停に移動することすら出来なかったかもしれない。ホセの住んでいるセバダスで落ち合わせる。マイクロバスを用意して待っていた。しかし運転手は車の掃除の最中だ。その間に、チーズ入りエンパナーダとモロチョという牛乳ととうもろこしの粉で出来た干しぶどう入りの白い飲み物で腹ごしらえをする。概ね予定通りの出発だ。

 山道を登っていく。車はあえぎながらゆっくり進む。山には木はほとんどない。若草山のような草の山だ。道路沿いを清流が流れている。牛が草を食んでいる。時々、馬に乗ったインディオとすれ違う。インディオ風のカバーニャ(山小屋)のレストランで、トルーチャ(鮎)の塩焼きを予約する。裏山はそそり立つ岩の山だ。雲に被われ小雨も振り出した。やがて霧の中に湖が見えてくる。アティージョ湖だ。標高3370m。チンボラソとモロナ・サンティアゴとカニャールの県境にある。

 

               アティージョ湖

 

              インディオの家族

 更に東へ下っていく。モロナ・サンティアゴ県に入るとオリエンテからのアマゾンの湿った風がこの山に当たり年中霧が発生している。標高は2650m。リオバンバと変わりないが、熱帯の植生だ。長い滝が岩の斜面を流れ落ちている。ジャングルの木々にはサルオガセのような苔やアナナスが取り付いている。蛇も多い。虎もいるとのことだ。このまま下るとアマゾンに程近いマカスの町だ。今回はアマゾンが目的ではない。蛇や虎にも会いたくない。程ほどのところでアティージョ湖に引き返す。

 相変わらずの小雨交じりの霧だ。湖面の境が解らない。岩陰に小さな赤や黄色の花が可憐に咲いている。寒暖の差が激しいほど美味しい野菜が採れると聞いたことがあるが、厳しい自然環境に咲く花はことのほか美しい。ホセが仲間と釣り糸を出し、鮎釣りに懸命だ。しかし鮎も去るもの、満腹か昼寝時か、一匹も釣れない。塩焼きパーティーは無理のようだ。

 川の浅瀬を車で渡り、インディオの村に入る。トルーチャの養殖場だ。虹鱒の養殖のようだ。1匹1ドル。1キロ3.5ドルとのことであった。牛肉もさばいて売っていた。仲間の1人が牛の足4本買った。まさか蹄を食べるのではなかろうに。でも美味しいんだそうだ。洟垂れ小僧たちがデジカメを興味深そうに見ている。インディオの家の中を覗かせてもらう。真ん中に囲炉裏があり、そこで煮炊きをしている。温かくて結構懐かしい空間だ。家族の団欒にはもってこいかもしれない。キャンプを思い出す。インディオの家族と虹鱒に別れを告げ、塩焼きの待つレストランに向かった。

 女将が一生懸命にトルーチャを焼いている。というより、油で炒めている。ご飯の上に大振りのトルーチャがドンと乗っている。「旨い」こんな旨いものをエクアドルで食べるのは初めてのような気がする。やはり日本人だ。塩焼きではなかったが、塩加減も程ほどで、やはり虹鱒だ。エクアドル焼酎の「シュミール」を注文して、日本の味に舌鼓を打った。

 ホセのこの企画に感謝したい。しかし、口達者の割りには、釣りの腕前はたいしたことはなさそうだ。                                                                                                                                                                                                                                        

 

平成21年2月8日

須郷隆雄