エクアドル便り36号

セマナ・サンタ

セマナ・サンタ(聖週間)が始まった。これはカトリックの呼び名だ。プロテスタントは受難週という。聖枝祭から復活祭(イースター)の前日までの1週間を指す。今年は4月5日の日曜から11日の土曜までだ。キリストは金曜日に処刑され、日曜日に復活したとされている。キリストの受難を再現する週である。聖金曜日は人間の冤罪を象徴する肉食を断ち、魚を食べる。代表的なお菓子は「トリーハス」だ。キリストが復活する日曜日、イースターには禁じられていた肉、乳製品、卵などが解禁になり、動物性食品が並ぶ。ヒナが卵から生まれることを、イエスが墓から出て復活することに結びつけ、「イースター・エッグ」という言葉がある。また、ウサギは多産で生命の象徴として、「イースター・バニー」という言葉もある。「ユダヤ人とポーランド人」をテーマにしたポーランド人映画監督アンジェイ・ワイダの「聖週間」を思い出す。

 駅前の旅行代理店に入っていると、長い行列が差しかかった。キリスト像やマリア像を先頭に、白い布を頭から被り、クー・クラックス・クラウンのような白装束の集団、白いバラを持った女子高生、天使のような装束の子供たち、静かな鎮魂歌を奏でる黒装束の演奏者たち、黒い僧侶姿の人々が、まさにキリストの受難を再現して行進している。カテドラルに向かうのかと思いきや、コンセプシオン教会広場に向かって行った。大変な人だかりだ。カトリックのキリストやマリアに対する思いの深さを感じる。

  

        メキシコの踊り子たち                        蝶の舞

 セマナ・サンタには、宗教的行事の他に色々な催しが行われていた。

 グアヤキル公園を歩いていると、中南米各国の衣装を身に着けた踊り子さんたちがパレードをしていた。チラシをもらうと、夜7時から体育館で第17回世界民族舞踊大会があるとのことだ。愛敬を振りまきながら行進している。客寄せのデモンストレーションだったのだろう。早速行ってみることにした。参加国はコロンビア、メキシコ、エジプト、イタリア、ペルー、それに地元エクアドルだ。席に着くと昼訪問したばかりの、着任当時お世話になったリンコン・アレマン・ホテルの女主人エレーナとスペイン語研修に来ているアメリカ人女性にバッタリ会ってしまった。やむなく同席することにした。

 最初はハサミを「チョキチョキ」と奏でながらインカのリズムで、6人の少年が激しく踊るペルーの舞から始まった。その名も「ティヘラス(ハサミ)」だ。続いてエジプトのベリー・ダンス。官能的な踊りに、つい身をのり出してしまった。コロンビアは太鼓と激しいリズムの先住民の踊り。「チレパレ、チレパレ、チラパレチー」とアフリカのリズムに近い感じだ。メキシコはフラメンコ風の踊りに蝶の舞。頭にテキーラを載せた娼婦の舞。イタリアは6人組のバンドに合わせ、1人の女性が艶めかしく踊る。シシリー島に伝わる舞踏のようにも見える。合間にエクアドルのインディヘナの踊り、高校生男女による清楚な伝統舞踊が披露された。ケーナ、サンポーニャ、ボンゴ。エクアドルの国旗に万雷の拍手。久々に芸術の世界に触れたような満足感を味わった。しかし、もう少し音響効果に配慮して欲しかった。帰りに耳が「ガーン」として、鼓膜に異常をきたしたのではないかと心配になった。

 8月9日通りを歩いていると、またロディオの看板が目に留まった。キンタ・マカヒで9時から開催と書いてある。早速野次馬根性で出かける。9時に行くと「10時からだ」という。「一体あの看板はなんだったんだ」と言いたくなる。同様に時間どおりに来た観光客風のご夫婦に、写真を一緒に撮ることを求められる。「同類相憐れむ」の気持ちがあったのだろうか。それともインディヘナに間違えられたのだろうか。写真を求められたのは初めてだ。悪い気はしない。まだ馬に乗って町中を客寄せのためデモンストレーションをしている。10時半、裸馬が入ってくるが始まらない。11時、漸く客が増えてくる。11時半、騎手が入ってくる。12時、漸く始まる。強い日差しの下、もう疲れきってしまった。牛を追うガウチョ、ロディオに中年おばさんが「ブラボー」とやかましい。地元の人はこの時間帯を知り尽くしているのだろう。疲れてしまって、最高潮に達する前に帰ることになった。

 夜に昼に、とにかく賑やかな1週間であった。キリストの受難の週として、受難を再現する週なのだろうが、受難を祝っているような錯覚にすらなる。ラテンの血がこうさせているのだろうか。むしろ復活を先取りして祝っているのかもしれない。それにしても毎日騒々しい。もう少し静かに過ごせないものだろうか。セマナ・サンタが過ぎても朝早くから夜遅くまで小学生や中学生が「ドンチャラ、パッパ」と家の周りを演奏して歩く。今度は町のお祭りが始まったようだ。車を連ね、旗をかざし、音楽をかなで、選挙戦と相まって、リオバンバは今大騒ぎだ。

平成21年4月18日 須郷隆雄