エクアドル便り38号

エクアドル統一選挙

 

エクアドルの統一選挙が始まった。大統領、副大統領、国会議員に県会議員、県知事、市長の統一同時選挙だ。426日が投票日。党派毎に様々なデザインの旗を掲げ選挙戦の真最中だ。掲げられる旗の数で、優勢な候補者が次第に見えてくる。それにしても、これだけの統一、しかも同時選挙をして国政に支障をきたさないものかと気になる。

選挙権は18歳から65歳までが強制義務を有する。しかし、1617歳の若者及び66歳以上の老人は自由意志で選挙することが出来るとなっている。同様に警察官や軍人、5年以上在住の外国人も自由意志だ。強制ではない。「ところ変われば品変わる」選挙も国によって大分違うようだ。

現大統領コレアグループが優勢に見える。エクアドルでは大統領の任期は1期4年と定められていた。しかし、昨年9月の憲法改正で再選が可能になった。チンボラソの現知事クリカマや前ペニペ市長でリオバンバ市長候補のサラサールもリードしている感じだ。共にインディヘナを選挙母体とするコレアグループだ。彼らの旗印は虹色だ。地方に行くほどこの虹色旗が圧倒的な数を占めている。選挙戦は加熱の一途だ。町を歩いていても、バスに乗っても、候補者のチラシを配りに来る。最近は車を連ね、支持旗を掲げ、ボリュームを最大限に上げ音楽を奏で、デモンストレーションしている。候補者の看板は所かまわず掲げられているが、政策を街頭演説している姿は見たことがない。

  

     コレアとクリカマ                 サラサール夫妻(投票所)

ラテンアメリカの政治文化といえばペルソナリスモ(身びいき主義、縁故主義)と言われる。これが政治腐敗と政権の不安定を招いている。そのため軍政と民政が代わる代わる交代し、政治が安定しない。ラテンアメリカの特徴として、軍の支配や影響力があるが、エクアドルの政治にもその特徴が現れている。しかしエクアドルの大衆の間には、政治経済エリートは利己的で腐敗しているとの不満が根強い。

世論調査によると、軍を信頼する人は63%にのぼる一方で、政府(14%)、裁判所(9%)、議会(7%)、政党(6%)に対する信頼は低い。エクアドルの軍は企業経営や社会・教育活動も手掛けている。これら一連の活動を通じて雇用を創出し、外貨を獲得し、産業の国際競争力を高め、民生を向上させることに使命感を抱いているようだ。貧困や低開発は共産主義や体制打倒の温床になりかねず、それを防ぐためには大衆の生活水準を向上させなければならない。国家の発展を主体的任務と位置づけ、政治に口を出し、時には政権に就き、開発政策を進めてきた。陸軍は鉄鋼や機械から銀行経営、ホテル経営、更に花卉栽培やエビ養殖などアグリビジネスまで手掛けている。海軍はタンカー会社持ち、空軍は国内最大の航空会社を運営している。軍が高い信頼を得ている背景には、このような活動が評価されているからだろう。

1930年代以降ポピュリズムと呼ばれる新しい政治スタイルが現れた。その背景には、シエラの伝統的な地主勢力が凋落し、コスタのブルジョア層による自由主義支配への反発が強まるなか、都市貧困層の増大があった。そこに現れたのがベラスコ・イバラだった。「我にバルコニーを与えよ、されば大統領たらん」雄弁家で、演説や選挙キャンペーンで演劇的なパフォーマンスを繰り返し、民衆や貧困層を魅了した。しかし度重なる亡命で「偉大なる不在者」と呼ばれるように、このポピュリズム型政治はしばしば保守勢力や軍と対立し政治は安定しなかった。バルコニーに立ち演説するベラスコ・イバラの像がキト市内にある。労働者を基盤にした改良的な民族主義的政治運動、人民主義を今もバルコニーから大衆に語りかけている。

エクアドルの政治の安定と真の民主主義を根付かせることが出来るか否かは、軍の態度の問題だけではなく、政治経済エリートの良質な行動と統治能力、政治システムの質的向上に掛かっているといえそうだ。

4月26日、いよいよ投票日を迎えた。町は静まり返っている。投票所が何処にあるのか解らない。人の流れにあわせ歩いていく。次第に人が増えてくる。投票所の周りは露店が立ち並び大混雑だ。投票会場はソレシオノ小中学校。地域毎に、しかも男女別に投票する。「El Voto Es Secreto(投票は秘密)」と書かれている。市長候補のサラサールがやってきた。一斉に拍手が起こる。人だかりが出来る。カメラを向け、手を上げると、サラサール夫妻が笑顔で応じてくれた。会場を一周して帰っていった。

今の段階では誰が大統領になるのか、県知事になるのか、市長になるのかは解らない。そこで出口調査を試みた。答えは旗の数に比例していた。ここリオバンバでは虹色旗が圧勝のようだ。外は相変わらず露店が大賑わいだ。選挙とは無縁のように。帰りがけ、掃除婦エステーラの家族にあった。生活が少しでも良くなるように貴重な1票を投じたのであろう。

翌朝新聞を購入すると、現大統領コレアが既に過半数を超える54%を確保し当選を確実にしたと報じられていた。対抗馬のルシオは31%、元大統領ノボアは8%だった。地元の現知事クリカマも市長候補サラサールも予想通り当確となっていた。

 

平成21年4月26日

須郷隆雄