エクアドル便り39号

シクラメンのかおり

 

カテドラルのあるマルドナード公園近くの花屋に、シクラメンが大量に入荷した。エクアドルでこれほど沢山のシクラメンを見るのは初めてだ。4.5ドル、ちょっと高めであったが1鉢買って帰った。

シクラメンは地中海地方原産で、冬の花として人気がある。エクアドルは今が冬というわけではないが、清々しい花だ。和名は「篝火花」という。ある高貴な婦人が「これはかがり火のような花ですね」と言ったのを聞いて、牧野富太郎が名付けたそうだ。確かにかがり火のような花だ。しかし、もう1つの和名に「豚の饅頭」というのがある。これはある植物学者がシクラメンの英名「雌豚のパン Sow Bread」を日本語に訳した名だ。どうもシクラメンのイメージに合わない。球根が雌豚のパンに似ているところからの命名のようだ。花言葉は「清純、思慮深い、はにかみ、内気」何となく解るような気がする。シクラメンといえば思い出すのは、小椋佳作詞作曲で、布施明が歌った「シクラメンのかおり」だ。共にシクラメンのような二人である。

  

      シクラメンとインディヘナ               豚さんの昼寝

エクアドルは多様な風土に恵まれ、1万6千種の花があると言われている。バラはバナナに次ぐ輸出品として栽培されているが、菊の多いのにも驚く。エクアドルの国花は「アカキナノキ(赤キナの木)」だ。アンデス山脈が原産でアカネ科に属し、マラリアの特効薬として利用されている。樹皮が赤みを帯びているところから付いた名のようだ。しかし花は白い。ガラパゴスのサンタクルス島は、1970年代にはこのアカキナノキは1本もなかった。しかしマラリアを恐れた入植者が持ち込み、1980年代には種子が飛散し始め、1990年代には次第に増え、2000年代にはアカキナノキの群落に変わってしまったという。今その駆除に追われている。ガラパゴスは絶海の孤島であり、純血を守ってきた島なので、外来種には極めて弱い環境にある。幸いにもアカキナノキは他島には広がっていないとのことだ。世界遺産第1号に指定された理由が解る。しかし国花に定められているアカキナノキが、自らの世界遺産に危機をもたらすとは皮肉な話である。

シクラメンを「豚の饅頭」というのはちょっと気の毒だが、豚といえば、いま猛威を振るい始めた「豚インフルエンザ」だ。メキシコを発生源として、北米から世界に広がろうとしている。メキシコでは既に300人を超える感染者を出したとも報じられている。フェーズ1から6まであるそうだが、現在大きな集団で発生とされるフェーズ5にランクされた。世界的な大流行バンデミック、フェーズ6が差し迫っている状況であるとWHOは警告している。エクアドルも空港を中心に警戒態勢に入った。

2005年、東南アジアで猛威を振るった「鳥インフルエンザ」も世界的な危機が高まった。これはアジアから世界に広まろうとした。バンデミックした場合、日本国内の4人に1人、3200万人が感染し、64万人が死亡すると報じられた。世界中では何と500万人から1.5億人の死者を出すとも言われた。その前は、イギリスから始まった狂牛病がある。

次は犬なのか猫なのか。世界各地から突然発生する病気が一気にバンデミックして、世界を危機に陥れる。地球温暖化のような悠長な話ではない。明日の命が危ないのだ。人類はこれから何処に向かおうとしているのか。我々がしてきたことは一体なんだったのか。発展と崩壊は表裏一体にある。何処へ行く地球号。大きな問題を抱えて彷徨っている。

我が家の寝室にシクラメンがかがり火のように咲いている。ここにいると、地球号のことも世界の危機も忘れてしまう。「真綿色したシクラメンほど清しいものはない。出会いの時の君のようです。」かがり火を見ながら眠りに就く。

 

平成21年5月1日

須郷隆雄