エクアドル便り42号

ねこまんま

 

 エクアドルに来て既に半年が経つが、75キロあった体重が65キロを割り込んでしまった。来た当時はウエスト90センチでメタボといわれていたが、今は腹もペションとして、ベルトの穴も3つほど細くなった。ベスト体重ではあるが、頬もこけて来たし、髭面だし、大分老けて見える。

 掃除洗濯炊事が大の苦手で、掃除洗濯は掃除婦を雇うことで解決したが、炊事ばかりはどうしようもない。「やせ」の原因はここにありそうだ。最近は生きるために色々工夫を凝らし、何とか現状維持を保っている。

 エクアドルは赤道直下の強い日光に晒され、野菜類の皮は殆ど硬い。牛や羊はもちろん、豚まで草を食べて育っているため肉はみな硬い。更に煮たものは3000m近い標高のため、沸点が低いことからこれまた硬い。顎は疲れるし、歯まで痛めてしまった。そこでご飯は圧力鍋で炊き、1週間分をラップして冷凍室に入れ、毎日雑炊にして食べている。具はにんじんにたまねぎ、長ネギ、ピーマン、にんにく、時にはブロッコリーにキャベツもみじん切りにする。そこにウインナーソーセージやエビをこれまたみじん切りにして入れ、マギーブイヨンやカレールーで味付けして、最後に卵を落とし出来上がりである。所要時間30分、食べること10分だ。とにかく軟らかいし、バランスも取れているような気がする。当面はこの味に飽きるまで続けようと思っている。

  
              我が家のねこまんま                     ねこ殿 

 日本では今、「おとなのねこまんま」という本が話題のようだ。「極うま、極安、極早」が受けているらしい。これには何といっても、あったかご飯が基本だ。日本のご飯は世界一うまい。納豆や卵かけご飯が食べたいが、ここエクアドルはご飯がまずいのでそれも叶わない。「ねこまんま」といえば、おかかご飯にお茶漬けではなかろうか。それに丼物だ。天丼、カツ丼、牛丼、親子丼に玉子丼、そして鰻丼。思い出すだけでよだれが出る。まさに丼物は日本の文化だ。今や「ねこまんま」には300以上のメニューがあるそうだ。「おとなのねこまんま」4か条なるものもあるとのことだ。第1条、ルール無用、おとなの特権「ねこまんま」。第2条、分量適当、世界最速2工程。第3条、お財布と地球に優しい。第4条、楽しい初体験、驚きの新発見。以上が4か条だそうだ。私の食生活にピッタリだ。食糧危機が迫っている昨今、「ねこまんま4か条」を日本食事文化基本法として制定する必要がありそうだ。

 エクアドルには、インカ時代からの食文化と世界各地からの外国移民や黒人奴隷がもたらし、現地化した味がある。主食の地位にあるのはコメだ。コメ生産国のエクアドルではコメをよく食べる。肉や野菜、海産物などを一皿にご飯と一緒盛りにする。エクアドル風丼物といったところだ。それにスープとジュース、ポストレとしてデザートが付く。スープはロクロ。ジャガイモやトウモロコシ、豆類に肉を入れて煮込んだものだ。それには必ずといっていいほどシランドロなどの香草が入っている。慣れたとはいえ、未だに苦手だ。ジュースは自然環境が多様なため、その種類は豊富だ。我が家の食卓にはいつもバナナとアボガド、パパイヤにレモンが置かれている。

 海産物も豊富だ。しかし量は豊富だが、日本のように種類が多いという訳ではない。味も鮮度も良くない。セビチェといって、エビや貝、白身の魚などの魚介類のカクテルのような前菜がある。エクアドルに着任早々、名物とのことで食べてみたが、冷たく酸味が強く、口に合わなかった。以後食べるのを避けている。その他にカングレホといって、マングローブガニの料理がある。一般にはエビが多く、私は安全な冷凍エビを使っている。

 豚や鳥の丸焼きも多い。エクアドル人は鳥の丸焼きがお好きのようだ。屋台などでは豚の姿焼きをでんと飾っているところも珍しくない。農村部に行くとクイというテンジクネズミの丸焼きがご馳走の地位にある。インか時代からペルーなどのアンデス各地に見られる食習慣で、祝い事や来客のもてなしに供されている。味は鶏肉に似ている。アサードの店は何軒か見つけたが、アルゼンチン風アサードはクエンカの1軒以外お目にかかっていない。

 112日、死者の日にはコラーダ・モラーダという独特の飲料が飲まれる。オートミールのようなどろっとした麦芽飲料だ。これを飲んで3日ほど腹の具合を悪くした記憶がある。飲みものといえば、ユカイモを発酵させたチチャというのがある。チチャは滋養面だけでなく、シャーマンの儀礼でも重要な飲料と聞く。行きつけのレストランの主人が良く出してくれるがどうも馴染めない。

 中華料理はラテンアメリカ各地と同様に、庶民の味として定着している。CHIFAといって、中華屋さんはいたるところにある。14万人足らずのここリオバンバにも10軒以上はある。レストランに限らず、衣料品店や雑貨屋さんも多い。華僑の商魂のたくましさを肌で感じる。それに引き換え、車や電気製品は日本製が圧倒している。

 食習慣を変えることは難しい。12歳までに食の基本は確立されるといわれている。マクドナルド戦略もそこにあったようだ。我々世代は学校給食でアメリカ配給の脱脂粉乳で育ったせいか、牛乳や乳製品には抵抗がない。それにしても「ねこまんま」は日本の伝統的食文化である。寿司、てんぷら、すき焼きと共に「丼」文化「ねこまんま」を世界に広めて行きたい。「ねこまんま4か条」が日本食事文化基本法に制定される日も近いだろう。

 

平成21年5月20日

須郷隆雄