エクアドル便り5号

カハス国立公園

 

 カハス国立公園はクエンカの西、1時間ほどのところにある標高4000mの湿原だ。広さは28000ha、235の湖沼が点在している。

 クエンカからエクアドル最大の都市グアヤギルに通じる道を西に向かって進む。かつては山道で、グアヤギルまで馬やリャマを使って10時間はかかったというインカ道である。山肌に牛が放牧されている。のどかな光景だ。やがてインカ道と思しき石畳の道をゴトゴトと進むと、カハス国立公園に到着だ。入場料10ドルを払い、暫し歩くと湖が見えてくる。山間にある湿原だ。尾瀬といったところか。水は透き通っている。切れるほどではないが結構冷たい。釣り人がニジマスを釣っている。「水清くして魚棲まず」と言うが、ニジマスは違うようだ。ここは太平洋とアマゾンへの分水嶺だ。ここからクエンカのトメバンバ川を経て、やがて大河アマゾンへと流れていく。ニジマスの棲むこの川が、やがてワニやピラニアの棲むアマゾンへ通じていると思うと不思議な気がする。

 湿原には色々な花が咲いているが、タンポポの多いのに驚く。4000mとは思えない光景だ。やはり赤道直下である。ここしかないパラモ・エルバセオという草のような木のような、すりこぎ棒を立てたような植物が生えている。リャマが興味深そうにこちらを眺めている。ここのリャマは白毛である。魚を餌にするネズミやパラモ狼など、この地特有の動物が44種もいるそうだ。

 
 
   カハスのリャマ

 

   カハス国立公園

 さらに足を伸ばし、山を越えて次の湖を目指すことになった。山に入るに従って、渓流が激しい勢いで流れていく。奥入瀬といった感じだ。山が覆い被さるようにそそり立っている。細い滝が幾筋も流れ落ちている。さらに進むと密林、ジャングルである。ランが幾重にも木に絡み付いて自生している。赤道直下と4000mという標高がごちゃごちゃになった妙な空間だ。靴は最早泥にまみれてグショグショだ。

 ハチドリの種類はコロンビアに次いで世界で2番目に多いと聞くが、1羽しか見かけなかった。花の蜜を吸いながら羽ばたいている姿は、鳥というよりも蜂である。ハチドリは「コリブリ」とも「ピカ・フロール」とも呼ぶ。インディオのケチュア語では「キンデ」と呼ぶそうだ。ピカ・フロールには花を渡り歩くという意味もあり、浮気者とかドンファンにも例えられるようだ。ちなみに我々のスペイン語教師のフェルナンドのあだ名でもある。

 山は益々険しくなり、町を歩く格好では所詮無理。息苦しさも手伝い、目的の湖直前で引き返すことにした。やがて雨。土砂降りである。頭から足までずぶぬれだ。カハス国立公園は年間雨量1072ミリ、平均気温7度である。「戦い済んで、ずぶぬれて」。冷え切った体でサルトル宅に戻った。

 シャワー室で泥だらけの運動靴とジーパンをお湯で流し、シャワーを浴びてベッドに寝込む。目を覚ますと、下から「スゴー、コーヒーが沸いているよ」との声。自分の家のようなサルトル・カルバージョ家の温かさを感じた。

 

平成20年10月18日




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