エクアドル便り51号
インディヘナの産婆さん
日本への一時帰国の直前頃から、左肩の肩甲骨の辺りがピンポイント的に痛み出した。原因は定かではないが、パソコンに向かう時間が長くなったためか、あるいは枕の加減かもしれない。
日本に帰るなり、整形外科に行ってみた。背骨の5番目と6番目の間の軟骨が飛び出しているとのことだった。ヘルニアというやつだ。しかし背骨は全く痛くない。「湿布薬と痛み止めでも出しておきましょうか」との診断であった。整形外科ほどいい加減な医者はいないと日頃から感じているが、何とも不甲斐ない診断だ。整骨院や鍼灸院に行っても整形外科の評判は良くない。
アンディーノ病院 診療科
この病院には色々な伝統医療の診療科がある。YACHAK(ヤチャック)といって、薬草で頭を清め、薬草を燻すアロマテラピーのようなもの、ろうそくを立て、火を焚き祈祷師のようなシャーマンのようなものもある。同毒療法、自然療法、水治療、鍼治療、霊気なるものまである。何とも怪しい世界だ。DESINTOXICACION(デシィントキシカシオン)といった解毒効果のある器具もある。脚を水に漬け、電気を通し30分すると水が褐色に変わり毒が出たという。何ともまやかしのような気もする。若い娘には人気のようだ。しかし実際に稼動しているのはソバドーラとヤチャック、それに怪しげな解毒器だけだ。
私の事務所の隣に薬草やハーブや訳の解らないものを調合して飲ませてくれる店がある。この類の店は概ねインディヘナが開いている。ある時、薬草を煎じたお茶を飲ませてもらった。緑茶が主で、他に4種類ほどの薬草が使われている。解毒作用があるという。効果はてきめんに現れた。黄色いおしっこが透明に変わっていたのだ。以後毎日飲んでいる。しかしプロテイン入りをしつこく薦めるのには閉口している。
1度だけ別のソバドーラにかかったことがある。産婆さんとは違った軟膏を使い、しかもレモン汁で伸ばしながらぬたくる。背中じゅうレモンかすだらけだ。挙句の果てに訳の解らないサプリメントを勧められ、2度とこのレモン汁おばさんのところには行っていない。
エクアドルの医療機関は、南米が大抵そうであるように完全分業制だ。診療と検査と薬は全て分業になっている。日本のような訳には行かない。結構面倒だ。公立病院は診療費が原則無料。混んでいて衛生面に問題がある。外国人や金持ちは民間の医療機関を利用しているようだ。南米では教育と医療は無料というのが原則だ。
シャーマンはシベリアのツングース系諸族の例が早くから注目されていた。日本にも巫女や呪い師、祈祷師などが半世紀ほど前まではいたような気がする。薬草師は医者のことでもあった。源氏物語に「わらは病に久しうやみ給いて、呪いなども心安くせむとて」と記されている。
祈祷師、信仰治療師、占い師、薬草師、マッサージ師それに伝統的な産婆さんなど色々な伝統治療師がいるが、近代医学では埋め尽くせない心の隙間を癒してくれる。怪しい世界と言うだけでは済まない生きるための知恵がそこにあるのかも知れない。「溺れるもの藁をも掴む」である。
平成21年9月7日
須郷隆雄