エクアドル便り56号

新しき仲間たち

 

派遣先の執行部及びスタッフが全員代わった。今までの仲間のホセは他のチーズ会社に移った。ルイスは今までと同様にCESA(エクアドルのNGO)に席を置き,MIES(社会経済省)のプロジェクトに関わっているようだ。カルロスは未だに職が見つかっていない。自宅が革製品の工場なので、当面は生活には困らないようだ。慣れ親しんだ仲間と別れるのは辛い。エクアドルが概ねそうであるように、期間契約が多い。執行部が変わるとそれにあわせて、スタッフも変わる。

日本への一時帰国を終え、エクアドルへ戻ると新しいスタッフが顔を揃えていた。組合長はヴィクトル、会員のグアモテの組合長でもある。年齢は30歳そこそこ、若手のホープだ。統括責任者はアルフォンソ、今までグアモテに勤務していたESPOCH(チンボラソ工科大学)卒の29歳。会計責任者はマギー、45歳女性、既婚。販売責任者はオルガ、26歳女性、既婚である。日常顔をあわせるのはアルフォンソとマギー、オルガだ。時々顔をあわせるのが、CESAに変わって支援団体になったTRIAS(ベルギーのNGO)のベンだ。

  

       アルフォンソ、オルガ、マギー                     TRIASのベン

アルフォンソは結婚し、3歳の子がいる。車を持っていないので、毎日グアモテから1時間半掛け、バスで通っている。移動は専らバスだ。一緒に出かけることは殆どない。しかし心優しい青年で、何かと気を使ってくれる。マギーは結婚して3年しか経っていない。エクアドルにしては珍しい晩婚だ。ご主人は3歳年下。子供はいない。最早つくる気もないようだ。出来ないというべきだろう。日本語に関心があり、朝行くと「さよなら」と挨拶したりする。最近は間違わずに「おはよう」というようになった。勤務は午前中のみ。お喋りで、彼女がいると事務所が明るくなる。愉快なおばさんで、唯一インディヘナではない。オルガは3歳の子持ち。息子はヘンジと言って、やんちゃな坊主だ。私は「ケンちゃん」と呼んでいる。よく冗談を言い合っていたセバダスのリカルドの娘だということを後で知った。よく見ると似ているかなといった感じだ。性格は親父に似ず、控えめでしっかり者だ。パソコンに興味があるようで、インターネットの使い方を教えている。生粋のインディヘナである。女性が、しかも2人も入ったお陰で、事務所が綺麗になった。時々窓掃除などもしている。男ばかりの事務所とは大分趣が変わった。

TRIASのベンはいつも日産の四駆に乗っている。南米勤務が永いようで、奥さんはチリ人だ。ベンはベルギー人、まだ子供はいない。ベルギーはドイツ語を話すものとばっかり思っていたが、オランダ語とフランス語だそうだ。同じマーケティングを専門にしている。「スペイン語は難しい。なかなか喋れない」と言うと「来てどの位になる」と聞くので、「1年になる」と言うと、ベンは「3ヶ月でマスターした」と言う。オランダ語、フランス語、ドイツ語、英語、それにスペイン語がぺらぺらだ。何とも太刀打ちできない。若禿げで、服装にはいたって無頓着だ。

ベルギーは立憲君主制の国だ。オランダ、ルクセンブルグと合わせてベネルクス三国と呼ばれる。フランス、ドイツとも国境を接し、「ヨーロッパの心臓」とも言われる。首都はブリュッセル、欧州の首都的性格を持つ。58%の人が話すオランダ語が公用語の北部フランデレン地域と31%の人が話すフランス語と一部ドイツ語の南部ワロン地域に二分されている。複雑な国のようだ。フランデレン地方ではオランダ語の方言が話され、「フラマン語」とも言う。ベンの車の中で「ベルギーはドイツ語を話すのか」と聞くと、「フラメンコ」だと言う。「踊りのブラメンコか」と頓珍漢な聞き返しをしたが、「フラマン語」というのを聞き違えたようだ。ヒットラーがオランダとベルギーの中立国宣言を無視し蹂躙することによって、防衛線の弱点を突き、簡単にフランスを陥落させたという話がある。ドイツと同盟を結んだ日本には、あまり好感を持っていないのかもしれない。何となく冷たさを感じる。ベルギーはゲルマンとラテンというヨーロッパの2大民族が融合した国だ。EUやNATOの本部が置かれる所以でもある。フランス語で「ブリュッセル」、オランダ語では「ブラッセル」、大した違いはない。「小便小僧」のブリュッセル、「フランダースの犬」のアントワープ。日本にもそういう県があるが、ベルギーという国名より都市名のほうが知られている。

このような新しい仲間たちと又もや頓珍漢な話をしながら、毎日を過ごしている。1日中新聞を読んで、「いやー、今日は疲れた」と言って帰る日もある。それでも文句一つ言わず、温かく迎えてくれる心優しき仲間たちである。

平成21年10月1日

須郷隆雄