エクアドル便り6号

クエンカ語学研修

 

 エクアドル到着4日目、早朝5時50分、キト空港へ向かう。搭乗するもクエンカの気象状況が悪く、やむなく待機。空港内は人で溢れている。しかし、インディオ系は見当たらない。雪を被った5900mの富士山に良く似たコトパスシ山を越えてクエンカへ。山肌にブータンのような山道が蛇行している。クエンカだ。

 クエンカは標高2530m、人口40万、キト、グアヤキルに次ぐ第3の都市だ。町全体が世界遺産に指定されている。16世紀にスペインに支配されて以来、カニャリ族の土地はスペイン風の町並みに変わったものの、人口の多くはインディオが占めているという。市場に行くと、山高帽のようなパナマ帽を被り短めの赤や緑のかなり派手目なポシェーラをはいたお婆ちゃんに良く出会う。パナマ帽は本来「バハ・トキィージャ帽」と言ってエクアドルが原産だ。パナマ運河を建設する際に、強い日差しと降雨を避けるためにそれを愛用したことから「パナマハット」として世界に流通したのだそうだ。明治期には日本でも大流行し、夏目漱石はこのパナマ帽をこよなく愛したとのことだ。

ここクエンカは高原の澄んだ空気に包まれ、時間がゆっくりと流れ、心が癒される静かな町である。


  

    ネクスス語学学校

  

     語学教師カティー


 語学研修先のエクススでクラス分け試験を受ける。午前8時から10時まで個人レッスン、10時半から1時までグループ授業だ。以後は概ね自由。個人レッスンはカタリーナ、通称カティー。なかなかの美人さんだ。メスティーソというが、そうは見えない。グループ授業はフェルナンド、通称フェル。好感の持てる青年だが、結構いいかげんだ。6人が一緒で、わいわい楽しくやっている。

授業の合間を縫って市内観光をしたり、博物館巡りをしたり、遺跡巡りもする。変化にとんで結構楽しい。日本での語学授業と違って、詰め込みでないのがいい。時にはゼスチャーで説明したり、舞台俳優並みの劇を演じさせられたりする時もある。ノルウェーから来た男女が2人いる。

1週間を過ぎた時点で、校長さんが授業の内容やホームステー先への要望や不満を聞きに来た。ついつい日本人の曖昧さで「まあまあ満足」と応えておいた。

クエンカ在住の青年ボランティアがピストルを持った3人組の強盗に入られ、1000ドルと携帯、デジカメを取られたとの情報が入った。静かな文化的な町も結構危険と隣りあわせだ。以後夜間の外出と貴重品の持ち歩きが禁止になった。

エクススの前をトメバンバ川が流れている。時々この河原を散歩する。ユーカリがうっそうと茂っていて、その香りで疲れた心と体が癒される。子供たちがサッカーをしていたり、家族連れがおしゃべりをしていたり、恋人同士が愛をささやいたり、結構退屈しのぎにはなる。所々で洗濯もしている。

授業の合間にサルサを習ったり、企業家を訪問したりもする。先日、バラ栽培農家に行った。農家というよりも企業家だ。ハウス栽培で、赤いバラ1種類を栽培し、しかも広さは4haある。90%はアメリカとロシアに輸出している。輸出農家が多いと聞くが、それを実感した。1種類のバラを4ha栽培することにも驚いた。組合組織を作ることも商社を使うこともなく、個人で輸出しているとのことだ。35人の労働者を雇い、最盛期のバレンタインデーの頃は70人を雇用し、年間8000万円程の売り上げがあるそうだ。経営者のテオドロはこれでも決して大きいほうではないと言っていた。このシエラ地帯はバラを中心とした花の栽培に適した気候風土に恵まれ、バナナに次ぐ輸出品になっている。生のスペイン語学習である。

クエンカには民族系国内最大の「ヌツリ・レテェ」という乳業メーカーがある。カティーに訪問したい旨を伝えると了承してくれた。この工場は日量170tを処理し、LL牛乳を主体にピロータイプの低温殺菌牛乳も生産していた。他に乳製品、ヨーグルト専門工場があるとのことであった。ISOも取得し、なかなか近代的な工場だ。最大手はネスレで、80%のシェアを持っている。クレスポ技師の説明に耳を傾けるものの、なかなか理解しきれない。スペイン語もまだまだ道遠しだ。

クエンカ大学のパラシオス博士にも会ってきた。リオバンバでの活動の協力を約束してくれた。

最終日のプレゼンテーションの原稿チェックを受けている。かつて経験したアルゼンチンとブータン、それに日本との文化の違い、異文化について話すことにしているが、理解させるのに一苦労だ。「車は左、人は右」に、「何故人は右を歩かなければいけないのだ」と言う始末。

まもなく1ヶ月に及ぶ語学研修も終わろうとしている。どれほどの成果があったかは今後の結果を見るしかない。しかし、ただで教えて頂いたことには感謝せねばなるまい。

飛行機で会ったウーゴ親子、海渡くんとも会えたし、思い残すことはない。楽しかった。有難う。アディオス!クエンカ。愛しの町!クエンカ。

ジャカランダがちらほら咲き始めていた。

 

平成20年10月21日

須郷隆雄




               >戻る