エクアドル便り60号
進化論の舞台ガラパゴス
(サン・クリストバルからロボ島へ)
グアヤキルのホセ・ホアキン空港は、今にも雨が降り出しそうな雨季の走りを思わせる曇り空だった。海外へ行くのと同様に、2時間前にチェックインするようにとの旅行会社の指示だ。それより早めに到着した。AERO GAL(ガラパゴス航空)のカウンターを確認し、INGALA(国立ガラパゴス研究所)の通行証を10ドルで購入する。エクアドル外務省発行のIDカードを提示するが、パスポートの提示も求められる。コピーを渡すと不満そうな顔をしながらも一応了解。暫しコーヒーを飲みながら通行証を確認する。パスポートNOが間違っている。早速再発行を求める。出発は11時15分、キトからの乗り継ぎ便だ。グアヤキルからの乗客はあまり多くない。1時間半のフライトだ。
雲を抜けると、そこは赤道直下の灼熱の太陽が輝いていた。グアヤキルを遠ざかるにつれて雲が切れてくる。真っ青な太平洋が広がる。羊が1匹、羊が2匹、羊が一杯浮かんでいる。羊雲の切れ間からガラパゴスが見えてくる。グランドのような、何処までも青い海に浮かんだ茶色い板のような島だ。山はない。思ったより大きい。ガラパゴス諸島で最も東に位置するサン・クリストバル島だ。コバルトブルーの海。海に着陸かと錯覚するほどだ。無事プログレッソ空港にランディングだ。時差1時間。強い日差し、しかし風は意外と涼しい。荒涼とした風景が広がっている。海は何処までも青い。
外国籍観光客は入島料を100ドル支払う。私はエクアドル外務省のIDカード持参なのでエクアドル人として6ドルで入島する。GALAXYのガイドが見当たらない。陽気なラテン系のおじさんと北欧系の女性、それに東洋系の女性がガイドらしき人と話している。ゲルマン系の顔をしたカップルが加わる。「GELAXYか」と聞くと「おおスゴー、これで全員だ」と言って、船着場に6人の仲間と向かう。案内の旗でも持っていて欲しいものだ。バケリソ・モレノ港には沢山の船が浮かんでいる。ゴムボートで16人乗りクルーザーGALAXY号に向かう。4人の先客がいた。合計10人、『ひょっとして個室が与えられるかも』と淡い期待をする。一緒に昼食。外人向けか、美味しい料理だ。ラテン系は相変わらず賑やかだ。
青足カツオドリ 太平洋に沈む夕日
船はゆっくりと揺れている。幸運にも1人部屋だ。通常だと50%増しの料金になる。「ラッキー」と言わざるを得ない。キャビンからグンカンドリが舞っているのが見える。船の周りをアシカが泳いでいる。ガラパゴスだという実感が湧いてくる。身支度を整え地図には載っていないほどの小さなロボ島に向かう。
砂にまみれてアシカ(シーライオン)が群れを成している。我々を歓迎するかのように寄ってくる。カメラを向けるとポーズを取っているようでもある。雄アシカはハーレムを守るため「ウォ、ウォ」と遠くで吠えている。母子アシカはひねもすのたり、お昼寝だ。岩には赤い20cmほどのベニイワガニが群れている。青足カツオドリがひょうきんな顔をして身繕いの最中だ。空にはグンカンドリが舞っている。その度に「アオアシカツオドリ」「グンカンドリ」と日本語でガイドが言う。日本人観光客も多いのだろう。結構日本語を使う。遠くにアシカのような岩礁が見える。眠れる獅子のようでもある。
再び船に戻る。突然サイレンが鳴り出す。救命訓練だ。イルカがジャンプしている。最早訓練どころではない。6時半にブリーフィング。ガラパゴスでの注意事項や明日の予定が説明された。今日は初日、乾杯をし、クルー全員が紹介された。
真っ赤な太陽が空を染めて太平洋に沈んでいった。夕日の後に刃のようなルネマグリットの月が冴え渡っていた。森山良子のヒット曲「今日の日はさようなら」を知らずに口ずさんでいた。「いつまでも絶えることなく 友達でいよう 明日の日を夢見て 希望の道を〜♪」
平成21年10月20日
須郷隆雄