エクアドル便り62号

進化論の舞台ガラパゴス

(北セイモア島からドラゴン・ヒルへ)

 

 サンタ・クルス島、バルトラ島、北セイモア島が北に向かって縦一列に並んでいた。サンタ・クルスはガラパゴス諸島の中で2番目に大きい島である。おできのような腫れ物がポコポコと出来たような島だ。バルトラは突端が人の顔をした、赤茶けた土がむき出しになった、空港のために出来たような真っ平な島だ。北セイモア島に上陸する。

 まるで枯木の島だ。グンカンドリの糞で島全体が白ずんで見える。枯木の茂みに巣作りし、雨季に備え産卵の準備をしている。雄は雌の注意を引くため、真っ赤なのど袋を膨らませ、嘴を鳴らし求愛活動をする。交尾前の雄はのど袋が赤いが、交尾後は白みを帯びた情けないのど袋に変わる。雌は胸元が白い。雛は白いが、成長するに従い黒くなる。グンカンドリは自分で餌をとることが出来ない。他の鳥が取った餌を盗む、いわゆる海賊鳥である。海賊に失敗した鳥は死が待っている。干からびた何羽かの死骸があった。自然の厳しさだ。

  

             グンカンドリの求愛                   瞑想するガラパゴス陸イグアナ

 枯木のように見えた木は、バロサントという。乾季には葉を落とし白い枯木のように見えるが、雨季に入ると一斉に葉を付け、島全体を緑に変える。ガラパゴスを代表する樹木だ。「聖なる木」とも言われ、教会が香木として利用していることに由来する。

 頭の黄色い陸イグアナが、身動きせずに体を温めている。まるで瞑想しているようにも見える。サンタ・フェ島の陸イグアナとは違う種だ。青足カツオドリが群れを成している。その風貌といい、大きな青足といい、何とも愛嬌がある。ダイビングにかけては、名前の通り島一番である。青足カツオドリとは反対に、赤い足をしているのが赤足カツオドリだ。白い体に青い嘴、水かきがあるのに人の手のように木をつかむことが出来る。そのため小鳥のように、潅木に巣を作って生活している。一度もお目にかかることが出来なかった。

 青空に飛行機が1機飛んでいった。一斉にシャッターが切られる。大自然の中にいると、文明の利器が恋しくなるのかもしれない。赤い芝草のような、珊瑚草のような赤い絨毯が広がる。岩場に黒い頭、赤い足のヨウガンカモメが1羽。「白い帽子、白い服、白い靴」のカモメの水兵さんとは違う。ゴムボートの周りにアシカが群がっている。

 昼食時、「ユミはいくつになったんだ」と聞くと「30歳」と答える。「男っぽい性格なんで、結婚の意欲が湧かない。当然彼氏もいない」「でも子供は欲しいかな」と。あっけらかんとして竹を割ったような性格だ。物怖じしない、誰とでも、どんな年代層ともうまく付き合える現代っ子だ。グループの人気者でもある。家の娘もそうだが、最近こういうタイプが多いのかもしれない。皆からは「親子か」と言われている。3人姉妹の末っ子だそうだ。

  

         攻撃的な海イグアナ                     ガラパゴス都鳥

 再びサンタ・クルス島へ。ドラゴン・ヒルに向かう。グンカンドリが群舞している。磯に青足カツオドリの大群。ベニイワガニも群れている。真っ黒な海イグアナに唾をかけられた。陸イグアナと違って、結構攻撃的だ。1匹の海イグアナの雄が2〜3匹の雌と棲んでいる。よそ者が近づくと威嚇し、頭を振り口を開け、手足を突っ張って体を上下にゆすり、首と背中のトサカを高々と持ち上げる。時折、鼻腔から恐竜のように水を吹きかける。暫し磯遊び。水は何処までも澄んでいる。赤い嘴のガラパゴス都鳥が砂浜で小魚をついばんでいる。アニメの舞台に出てきそうな怪奇な禿山のドラゴン・ヒルが聳えていた。

 オオフラミンゴ(ベニフラミンゴともいう)が1羽、池の中で優雅に餌をついばんでいる。ガラパゴス自生のフラミンゴと渡り鳥がいるそうだ。ドラゴン・ヒルの麓、白い枯木のようなバロサントとウチワサボテンの林の中に沢山の陸イグアナの巣があった。ウサギの巣穴のような感じだ。食べ物のウチワサボテンがあり、巣を作りやすい土もあり、繁殖地としては絶好の環境だ。しかし大敵ヤギも棲んでいるようだ。確かにヤギの足跡があった。

  

       怪奇な禿山ドラゴン・ヒル                    10人の仲間たち

 小さな砂浜に出た。波はほとんどない。穏やかな伊豆の海を思わせる。皆で海水浴を楽しむ。ビキニ姿が目に眩しい。暫し、波の音を聞きながら砂浜に寝転ぶ。

 夕日が怪奇な禿山ドラゴン・ヒルに落ちて行った。子供の頃からの習性で、太陽は海から昇り山に沈むものと思っていた。一応納得のいく日没であった。「信じあう喜びを 大切にしよう 今日の日はさようなら また会う日まで〜♪」

 

平成21年10月22日

須郷隆雄