エクアドル便り64号

進化論の舞台ガラパゴス

(ダーウィン研究所からバルトラ島へ)

 

 GALAXYはサンタ・クルス島のプエルト・アヨロ港に停泊していた。プエルト・アヨロはガラパゴス最大の町だ。人口約4000人。人工の建造物にほとんどお目にかからなかったので、プエルト・アヨロが大都会のように見えた。

 昨夜用意したチップを渡し、ダーウィン研究所に向かう。船着場で、海イグアナが行列して出迎えた。ゾウガメの歓迎も受ける。入り口に26歳のチャールズ・ダーウィン君の地質調査中の銅像が立っていた。この研究所は彼の研究者スピリットを受け継ぎ1964年に完成し、各国から様々な研究者が集まり、動植物の保護観察が行われている。特にゾウガメの飼育観察で有名だ。ゾウガメにはドーム型と鞍型があり、進化論の着想を得るきっかけになった。
  

          出迎える海イグアナ                     ダーウィン君との記念写真

 餌となる植物が多い場所ではドーム型、少ない場所では低木やサボテンを食べるため背甲が反り返った鞍型が生息している。天敵はないとされているが、卵や幼体の天敵としてタカ科の鳥ガラパゴスノスリがいる。また、犬や猫などの人為的に持ち込まれた動物だ。しかし、最大の天敵は生きた保存食として乱獲した人間ということになろう。ゾウガメは飲まず喰わずでも1年は生き延びる。その大きさは、甲長130cm、体重300kgという記録さえある。

 亀の子が養殖されていた。キャベツのような葉を食べている。親亀は生きてるのか、死んでるのか解らないほど動きがのろい。ガラパゴスには天敵も競争もないので、全ての動物がのんびりしている。人間社会の対極を見るようだ。ゾウガメはウミガメと違って、交尾の際に雌を押さえ込むため雄のほうが大きい。ロンサム・ジョージ君は最早お疲れで子孫は残せないという。ビンタ島に生き残った最後の一頭のゾウガメ「ロンサム・ジョージ」を保護し、何とか子孫を残そうと試行錯誤しているが、今のところその気がなく成果は上がっていないとのことだった。孤独な(ロンサム)ジョージ君である。それに引き換え、スーパー・ディエゴ君は絶倫だ。子孫をどんどん残している。日本では上野動物園でゾウガメを見ることが出来る。タロウ君と言い、1969年から飼育され、推定75歳だ。当園の最長老でもある。

 ガラパゴスゾウガメの推定寿命は200年と言われる。「鶴は千年、亀は万年」という諺は何処から来ているのであろうか。龍宮城の住民には歯がなかった。乙姫様は住民に「歯がないぶん、よく噛みなさい」と教えた。その教えを忠実に守った亀さんはとても長生きになったという。「噛めば万年、ツルリは千年」それを聞き違えた浦島太郎は「亀は万年、鶴は千年」にしてしまった。「もしもし噛めよ亀さんよ」という応援歌も出来た。果たして本当だろうか。しかし面白い話だ。実際には鶴の推定寿命は20〜25年、亀は100年と言われる。

  

       ロンサム(孤独な)・ジョージ君                   ゾウガメとの記念写真

 ユミとダーウィン研究所で別れた。ユミは7泊8日のクルーズだ。後3日ガラパゴスに滞在する。その後はスペイン、モロッコを経て東欧、中東を経由しフィリピンへ向かうとのことだ。「早く結婚して、いい子を産みな」と娘を諭すように言って別れた。売店で記念にペンギンのTシャツを1枚買った。バス乗り場でスイス人カップルとジョアンナと別れる。ここプエルト・アヨロに、もう2泊するとのことだ。

 GALAXYの大型バスが待っていた。乗るのはたったの6人。スペイン人ご夫妻とメキシコ人親娘、ルイスそれに私だ。ルイスも来た時ほど元気はない。皆との別れ、ガラパゴスとの別れに一抹の寂しさを感じているのかもしれない。空港への船着場までの42kmを北へ、無言のまま縦断する。向かいにバルトラ島が見える。目と鼻の先だ。パステルカラーの海に赤茶けた滑走路のようなバルトラ島。「矢切の渡し」のような船着場からトラックで空港へ。回りには何もない。帽子が飛ばされないようにしっかり抑える。すごい風だ。ガラパゴスの風を体一杯に吸い込む。小さな空港だ。搭乗手続きを済ませ、出発するまでぺぺが付き添ってくれた。ガラパゴス時間、午後1時、ガラパゴス諸島に別れを告げグアヤキルに向かった。グアヤキルは曇り空だった。リオバンバに着いたのは午後10時。上弦の月が静まった町並みを明るく照らし出していた。太平洋の孤島ガラパゴスから一気にアンデスの山懐リオバンバへ。気持ちの切り替えに暫しの時間を要した。

  

          ウミガメ(水中写真)                      バルトラ空港

 楽しい、心に残る思い出の旅だった。何時も賑やかにその場の雰囲気を盛り上げてくれたアメリカ人ルイス、何時もそばにいて通訳役を果たしてくれた日本人ユミ、時々官能的なビキニ姿を披露してくれたオランダ人ジョアンナ、何時もニコニコと穏やかに皆を見守ってくれたスイス人カップル、そしてスペイン人ご夫妻、メキシコ人親娘。素晴らしい仲間たちに恵まれ、忘れ難いガラパゴスの旅となった。「今日の日はさようなら また会う日まで また会う日まで〜♪」

 

平成21年10月24日

須郷隆雄