エクアドル便り73号
アマゾンの贈り物(大晦日の満月)
自然に触れることを目的とする「エコツーリズム」が脚光を浴びている。エクアドルでは、ガラパゴスとともにオリエンテと総称される東部熱帯低地へのツアーが、アマゾンにロマンを抱く人々を魅了している。この地域はアンデスとの境界領域にあたり、1500種以上の鳥類、300種の哺乳類、360種の両生類のほか、25000種にのぼる維管束植物が見られる。旅行者は多くの場合10人以下で、ガイドにコック、カヌーを操るモトリスタと一緒に熱帯雨林に入る。ナポ川流域とアグアリコ川流域がオリエンテの中でも多様なエコツアーが展開され、受入態勢も整っている。
まだ暗い朝5時、バスに乗りナポ川流域のテナに向かった。次第に、空に明るさが戻る。バーニョスで一時停車、トイレへ。車掌に急き立てられバスに戻る。プヨで再度停車、運転手と車掌は朝食を取っている。強い日差しのプヨから灼熱の熱帯雨林を北へ、テナまで1時間半だ。10時、かんかん照りのテナに到着する。日本は新年を迎えた時刻だ。ロッジのオーナーの息子、サンティアゴとツアーガイドのディエゴが出迎えてくれた。テナはナポの県都ではあるが、中心街は工事中で埃っぽく県都というイメージは無い。食料、飲料、氷などの買出しに付き合わされる。とにかく暑い、しかも蒸している。
ナポ川の桟橋、ミサウアジには沢山のカヌーが停泊していた。カヌーというよりは屋形船といった感じだ。子供たちが水浴びをしている。ユソという巨木に猿がたむろしていた。降りてきては観光客から食料をあさる。気持ちのいい川べりの砂浜公園だ。アナコンダを体に巻きつけた青年がいた。何とも気持ちの悪いペットだ。カカオの実が干してある。意外に小さい。つり橋を渡り、更に奥へ1時間、行き止まりだ。そこから川沿いにジャングルを歩くこと15分、ようやく宿泊地スチパカリ・ロッジに到着した。なかなか趣のあるジャングル・ロッジだ。「スチパカリ」とは、キチュア語で「自然の贈り物」という意味だそうだ。命名も洒落ている。キトとオタバロの中間にある町カヤンベから来た家族と早速川遊び。ピラニアはいないので安心だ。カカオの原木に、沢山の実をつけている。結構大きい。割って白い部分を食べてみた。種はチョコレートの材料だ。ランが無数に着生している。アメリカ南西端のサン・ディエゴから来た1人旅のアメリカ女性とコロンビアのボゴタから来た家族ら10人と遅い昼食をとる。話題はどうしても日本になる。しかし日本の知識は意外と薄い。
ハンモックで昼寝。ジャングルに抱かれたアマゾンの昼下がりである。「カンカンカン」という鐘の響きとともにカカオの実を使ったチョコレート作りが始まった。カカオ挽きの手伝い。早速食味。チョコレートとは今ひとつ味が違う。パンに塗って食べた。電気は通じていない。自家発電だ。携帯電話も通じない。黄色みを帯びた大きな満月が大晦日のジャングルを照らし昇ってきた。ディエゴは洋服に藁くずを詰め、今夜のイベントの人形作りに忙しい。オーストラリアの若者3人が到着する。とりあえずシャワーを浴び1日の汗を流す。ビールがうまい。カバーニャ(インディヘナ風ロッジ)の中はベッドやトイレ、シャワーも用意され、一応部屋の体は成している。草葺き屋根がむき出しで、かび臭い。しかしここはアマゾン、贅沢は言っていられない。
大晦日の満月 人形を燃やし新年を祝う
満月が大晦日の天中に輝いている。焚火の準備は整った。ディエゴが人形を運んで来る。勢いよく燃え上がる。12時。「Reliz Ano Nuevo(明けましておめでとう)」と互いに抱き合い、2010年の新年を祝った。ウィスキーで乾杯する。ディエゴのギターで歌い、踊る。ギターの響きと歌声、踊りに興じる足音と歓声が暗黒のアマゾンに木霊していた。
エクアドルは、クリスマスイブも同様に夜を徹してクリスマスを迎える。新年の迎え方は国それぞれだが、除夜の鐘を聞きながら年越しそばを食べ、心静かに新年を祝う日本の大晦日のしきたりもなかなかいい。108つの煩悩を祓う除夜の鐘の最後の1つは年が明けてから突くそうだ。四苦八苦(4*9+8*9=108)を取り払うと賭けたという説もある。賑やかに新年を迎えるここエクアドルでは、「かさじぞう」のような昔話は生まれないであろう。炎の上に満月が冴え渡っていた。カビの臭いの漂うカバーニャで新年の眠りに就いた。
平成22年12月31日
須郷隆雄