エクアドル便り75号
アマゾンの贈り物(世界最大の大河)
アメリカとオーストラリアの若者たちが帰っていった。「カランカランカラン」の鐘とともに大河アマゾンに出発する。渡し舟で対岸へ渡る。3人ずつの分乗だ。実に不安定な船だ。竹竿で漕いで行く。「矢切の渡し」のようだ。ぞろぞろと農道を歩き、インディヘナ部落を抜けると再び川原に出た。そこはナポ川、アマゾン川の上流である。カヌーの到着まで暫し休憩する。インディヘナの子が洗濯をしていた。時々こちらを見やる。彼女はどんな気持ちで我々を見ているのだろうか。コロンビアの家族は、今日は朝から元気だ。昨夜は十分に休息を取ったのだろう。母親と娘と息子、それに娘の婚約者だ。母親は楽しそうでもあり、時折寂しげな表情も見せる。娘は母親を気遣いながらも婚約者に抱かれている。娘を嫁がせる母親の心境はいかばかりか。
屋形船のようなカヌーでナポ川を下る。ヤマハのエンジン付きだ。食料も持参。快調に下る。しぶきがかかる。川風が心地よい。水量は多いが、川幅はまだそれほど広くない。鵜の群れに出会う。やがて浅瀬で座礁。乗客が降りて舟を押す。乗客と船頭と舟が一体の共同作業だ。入道雲にトンビがくるりと輪を描いた。
ナポ川を下る サチャ・マサイ博物館
サチャ・マサイ博物館に到着した。博物館というよりはカバーニャだ。前に血のような真っ赤な花が咲いている。ランのようでもあり、名前は解らない。かつてのインディヘナの生活用具が展示されていた。動物を捕獲する道具、TRAMPA(トランパ)といって落し穴や罠などだ。ウィルソンがその実演をして見せてくれる。名前はウィルソンだが、純粋のインディヘナだ。魚を取るウケや鳥を取る道具、囲炉裏に調理用具など、かつて日本にも有ったような道具ばかりだ。子供の頃を思い出す。アマゾンに生息する蛇の標本もあった。「長い物に巻かれよ」と言うが、どうも長いものは苦手だ。女性の出産姿の人形があった。中腰で、川に産み落としていたようにも見える。出産は女性にとって大仕事であっただろう。子供を生み落とすどころか、命を落とすこともあったと思う。カビ臭い博物館を出ると、前の池に小さなワニが1匹飼われていた。
椰子の葉に乗せられた昼食が用意されていた。コックの腕もなかなかのものだ。赤い花、白い雲、青い空の下で食べる食事は美味しい。テーブルの下では、鶏が忙しくこぼれた飯粒をついばんでいた。のどかなアマゾンの昼下がりである。吹き矢に挑戦してみた。凄い威力だ。当たったら人も命を落とすのではないだろうか。しかし、なかなか的には当たらない。再び舟に乗り、川を下って行く。
次は動物愛護センターだ。ドイツの可愛いお嬢さんが案内役だ。元気で溌剌とした説明が心地よい。ボランティアとして来ているのだろう。ドイツ訛りの無い上手なスペイン語だ。アナコンダが柵にへばり付いて昼寝をしていた。びっくり仰天だ。アナコンダは水生で、夜行性である。鳥類や哺乳類を食料とするボアの仲間だ。体重は250kg、10mを越えるとの報告もある。世界最大級のヘビだ。カピバラが食事中だ。猿がぶらんぶらんとサーカスのように曲芸をしている。鶏が1羽人恋しいのか、ずっとついて来る。イノシシが大あくびをしている。オームの合唱が聞こえる。池の中には「誰が生徒か先生か」メダカのようなピラニアが泳いでいた。亀の交尾だ。雄亀の腹の甲羅が窪んでいた。雌亀の背中に雄亀乗せる川亀のようだ。鶏に変わって子猿がついて来る。恥ずかしそうな、すねたような仕草をしている。子供の元気さが無いのは一体どうしたことか。入り口の案内所までついて来た。椅子に座って、相変わらずすねている。皆が一緒に写真を撮るが、愛想が無い。「ドイツ人女性の爽やかな案内に、有難う」と日本語で記帳して、動物愛護センターを出た。
川を再び下り、川幅の広い合流点から上って行く。右手に豪華なスイス・ロッジが川堤に聳えていた。夕日が川面を照らしている。やがて空を染め、ジャングルに沈んでいった。
アマゾン川はブラジルとその周辺諸国、ペルー、ボリビア、コロンビア、エクアドルの熱帯雨林を流れる世界最大の河川である。延長6516km、水源は標高5597mのペルーのミスミ山といわれる。流域面積は705万ku、オーストラリア大陸に匹敵する。平均水量は毎秒22万?、世界全河川の20%に当たる。アマゾンの名の由来は定かではないが、ギリシャ神話の女人族アマゾネスに因んでいるとも言われる。新生代以降、アンデス山脈が隆起するまでは太平洋に注いでいたという。
色々な話題を提供してくれたコロンビアの家族も、別れを告げて帰っていった。寝待の月がようやくアマゾンの夜空に昇ってきた。静かな夜を迎えていた。
平成22年1月2日
須郷隆雄