エクアドル便り86号

天使の歌声と美女競演

キリストの受難、死、そして復活を再現するセマナ・サンタ(聖週間)が始まった。キリストがエルサレムに入場した日から復活の日までの1週間だ。今年は3月28日(日)から4月4日(日)まで。キリストが十字架に掛けられる前夜、最後の晩餐をした聖木曜日、十字架にはりつけになり処刑された聖金曜日、そして日曜日に復活するイースターまでだ。

リオバンバでは、聖火曜日にコンセプシオン教会からキリスト像が運び出され、4.5kmの道を4時間練り歩いた。360年の歴史を持つ。その晩の7時から、以前ギターコンサートが開かれたサンフェリペ・バシリカ教会で聖歌コンサートが催された。ピアニストはロシアのナタリア・ダフコワ、ソプラノ歌手は隣県アンバトのマリア・オルキンの2人だけのシンプルなコンサートだ。

セマナ・サンタということもあり観客が多い。高校生が案内役を勤める。ピアノとソプラノのシンプルな響きが教会を包む。荘厳な響きとなって丸天井から降り注ぐ。天使の歌声だ。心が洗われる。しかし聖歌は良く解らない。ハレルヤとアヴェマリアぐらいか。アヴェマリアは5、6曲歌われたような気がする。波立った心が明鏡止水とまでは行かないが、静まるのを感じた。

モーゼが紅海を渡った後にエジプト軍が波に飲み込まれるのを見て、モーゼとイスラエルの民が主を賛美して歌ったのが聖歌の始まりとされている。主にカトリックは聖歌、プロテスタントは賛美歌と呼んでいる。聖歌アヴェマリアは数多く歌われている。中でもシューベルト、カッチーニ、グノーとバッハのコラボレーション作品が世界三大アヴェマリアと言われる。

シューベルトとグノーのアヴェマリアは聞き覚えがある。席を立って拍手で2人のアーチストを称えた。アンコールに応え、再度最もポピュラーなシューベルトのアヴェマリアを披露してくれた。満月が教会の尖塔を照らし出していた。

  

       天使の歌声                    美女コンテスト

セマナ・サンタの期間中は原則、アルコールや肉食は禁止だ。そのため、市場ではかぼちゃとタラの塩漬けが大量に売られている。普段は見かけない食材だ。異様な活気と異様な臭気を放っている。このかぼちゃと塩漬けのタラのスープを食べながら、キリストの受難と復活を祝うのだそうだ。

聖土曜日、街に出るとガウチョの行進が永遠と続いていた。その夜8時、ミス・リオバンバ・コンテストが行われた。道路は警察が封鎖規制をし、物々しい警戒態勢だ。エクアドル時間を予想してやや遅れて会場に入ると、状況は全く違う。既に超満員、空席は見当たらない。候補者の応援団が太鼓や旗、写真をかざし、大変な騒ぎだ。サッカー以上の盛り上がりだ。審査員が紹介された。ミス・クエンカ、ミス・エクアドル、ミス・ワールド代表も審査に加わる。アトラクションが始まった。立ったままでの観覧だ。

8人の候補者が赤と青のお揃いのコスチュームでステージを闊歩する。その度に応援団が「ドンチャラ、ピーピー」大変な騒ぎだ。それぞれに自己紹介があった。幕間に、メキシコのロス・トレス・レジェスによるギター演奏と歌。リードギターが素晴らしい。第2ステージは水着だ。少し鼻の下が伸びる。皆美しく、優劣つけがたい。ドンチャラ応援団の声援は益々過熱する。幕間にサックスと人気歌手フアン・ヴェラスコが登場。収拾がつかない騒ぎだ。隣の兄ちゃんは興奮状態で、歌にあわせ爆唱している。現ミス・リオバンバのパメラ・オカンポが登場。ステージを一周し、1年間の活動が放映された。そして挨拶。1年のキャリアの重みか、落ち着きと貫禄を感じさせる。第3ステージはそれぞれのドレスで登場だ。益々応援に熱が入る。リオバンバ賛辞が述べられた。優劣はつけがたい。8人全員をミス・リオバンバにしてあげたい。前評判ではESPOCHとUNACHの学生候補が優勢だった。既に11時半を回っていた。コンテストはまだまだ続いている。警察の封鎖規制をかいくぐり、興奮の余韻を感じつつ夜道を帰った。間もなくキリストが復活するイースターだ。新ミス・リオバンバの決定とともにリオバンバは復活祭を迎える。

ミス・コンテストには「女性の商品化」とか、「美的評価を序列化する」とか、「水着審査への反発」など批判も多い。しかし、これだけの盛り上がりを見せるエクアドルではそのような批判は当たらない。幼児の頃から「何とかのREINA(女王)」というたすきを掛けて、自らも誇りに思い、皆も祝福し、親善大使の役割を果たしている。

翌日の新聞報道では前評判とは違い、前ミス“ガラパゴス第11騎兵隊”のヴェネッサ・サンチェスが新ミス・リオバンバに決定と報じていた。賑やかな中にも厳かな、キリストの受難と復活のセマナ・サンタは滞りなく終了した。

平成22年4月3日

須郷隆雄