エクアドル便り98号

インティ・ライミ

 

 6月21日にリオバンバ郊外のカチャ村でインティ・ライミが執り行われた。インティとは、インカ帝国の言語キチュア語で「太陽」を、ライミは「お祭り」を意味する。インティ・ライミは、インカ帝国が執り行っていた「太陽の祭典」のことである。

 太陽の祭典はスペインの征服によるインカ帝国の崩壊後、太陽神を祀る事はカトリックの信仰に反するとして1572年に禁止された。しかしこの祭りは一部のインディヘナたちによって秘密裏に行われていたという。晴れて復活の日を迎えたのは400年近い年月を経た1944年だった。今ではペルーの世界遺産都市クスコで繰り広げられるこの祭りを見るため、世界中から観光客がやってくる大祭になった。

 インカの最高の神は太陽であり、皇帝は太陽の子と言われていた。「太陽をまともに見ると目がつぶれる」と言われ、人々は皇帝の姿を見ることが出来なかった。しかし年に1度だけ冬至の日に皇帝が太陽の神殿(コリカチャ)から中央広場(アルマス広場)へ神輿にかつがれ、人々の目の前に現れる。太陽の復活を祝い、その年の収穫に感謝し、翌年の豊作を願う祭りとして、昼が一番短い冬至の日に行われた。その年に収穫したトウモロコシで作った酒(チチャ)を太陽に捧げ、リャマを生け贄にし、豊作に感謝し、大地の神パチャママへの祈りを捧げる。皇帝、僧侶、神官、貴族、農民、全ての人々が心を同じくして太陽に感謝の祈りを捧げるという儀式だ。

  

    カチャ村のインティ・ライミ               ヤチャック(霊媒師)

 チンボラソ県で始めて催されたインティ・ライミがカチャ村で行われた。カチャ村は、フェルナンド・ダキレマがインカ帝国の名誉と誇りを取り戻すべく、1871年に数千人のインディヘナと共に立ち上がったインディヘナ反乱の地である。カチャ村のインカ帝国由来の砦で6月21日(冬至)に在来の人々や関係者を集め執り行われた。また、この祭典には国内はもちろん世界各地から多数の人々が、この儀式の伝統や習慣を体験するために集まった。この儀式について、ヤチャック(霊媒師)の1人インティ・パクシ(コトパクシの太陽)は「インディヘナの年譜に基づき、アステカやマヤ、インカの賢者によって予言された太陽が甦る冬至の日に、1000年ごろからインカ帝国の滅亡まで行われていた」と語っている。

 ベネズエラ人で、メキシコに30年住み、マヤ文明伝承の指導者ドミンゴ・ディアスポルタが世界各地を巡礼する150人の巡礼者を連れて参加した。インティ・ライミは悪霊や呪いを取り払うと共に、人間が本来持つ野望や悪徳、暴力を取り除き、心と精神の浄化を図るものでもあると言われる。

 シャーマン的儀式のようにも見えるが、インディヘナの文化、伝統が復活し伝承されていくことは意義のあることだ。しかしこの祭典が観光目当てのお祭り騒ぎにならないことを切に願いたい。

 

平成22年6月21日

須郷隆雄