ビジャマリア情報36
2005.12.20
Villa Maria, Cordoba, Argentina
須郷 隆雄
上田さん親子 サンマルコ広場
小雨のベネチア。まずはトイレへ。男子トイレは掃除中。銀儀ら銀の掃除おばさん「女子トイレを使え」と言う。遠慮がちに用を足し、旅行会社の出迎えを待つ。30分待つ。来ない。1時間待つ。まだ来ない。だんだん不安になってくる。日曜日でインフォメーションはやっていない。テレフォンカードを買い旅行会社に電話するが、一向に通じない。書いてある電話番号はローマである。しかも今日は日曜日、途方にくれてしまう。ベネチアの交通機関は船だ。タクシーはない。大きな荷物を抱えてどうしようもない。万事休すだ。偶然、日本のご婦人に会う。「イタリア語は話せますか」と尋ねると「私は娘に連れられて来たので、何にも分からないんですよ」と。「でも娘が切符を買いに行っているので、もうじき戻ります」と言う。娘さんに事情を話すと「とにかくホテルまで一緒に行きましょう」と。「地獄に仏」とはこのこと。この親子に連れられてホテルまで行くことになった。この方は上田さんといって、イギリス人と結婚し、今はロンドンに住んでいるとのこと。大阪の出身で、ベネチアは5回目とのことだ。バスに乗り、船を乗り継いでホテルへ。路地また路地で、迷路のようだ。とても一人で来られる代物ではない。上田さんのホテルから私のホテルに電話すると意外と近い。しかし迷路のような路地を行ったり来たり、やっとの思いで辿り着く。ホテルまで上田さん親子が同行してくれた。リアルト橋のたもとの洒落たレストランで食事を共にする。こんな親切に預かったことは初めてだ。本当に嬉しかった。感謝である。帰国後もメールでのお付き合いをさせて頂いている。それにしても何ということだ、旅行会社は。
水の都ベネチアはアドリア海に注ぐ干潟に造られた町だ。人々の足は水上バスとゴンドラ、車も自転車も通らない。177の運河と400の橋がつなぐ、愛の魔力に満ちた芸術の都でもある。
集合場所のサンマルコ広場へ行く。ナポレオンが「世界で最も美しい客間」と賞賛しただけのことはある。9時、サンマルコの鐘がなる。心が洗われるような響きだ。ガイドがやってくる。ちゃきちゃきのイタリアおばさんだ。早口の英語で喋り捲る。私を見て「シンガポールか香港か」と聞く。「日本人だ」と言うと怪訝な顔をして「日本人には日本語のガイドがいる」と言い「いただきます」と日本語を披露して、私を快く受け入れてくれた。このグループは全て英語だ。また私を指差しながらマルコ・ポーロの説明をしている。ジパングから来た珍しい仲間ということだろう。何かと説明の標的にされる。カウボーイ・ハットのヤンキーおばさん、物静かなドイツ人夫婦、アメリカ人を夫に持つ華僑夫人、フランスの新婚さん、アメリカの若夫婦と、ここにはもはや国境はない。
水上バスでベネチアガラスの工房へ。実演の後、商品を見て回る。なかなか見事なものだ。しかし、買う気はないのでやけに時間が長く感じる。サンマルコ広場に戻り解散。「カフェ・フローリアン」で生演奏が奏でられている。1720年に開業し、バイロンやディケンズに愛された老舗だ。カプチーノを注文し、一人演奏に聞き入る。ちょうど50年前に日本で公開された映画「旅情」のジェーンとレナートが最初に会ったのもこのカフェであった。出会いを期待したが、やってきたのはハトだった。思いを50年前にはせ、暫し優雅な気分を味わった。
リアルト橋からゴンドラ ユーロスター(オリエント特急)
リアルト橋の近くの別のレストランで「イカ墨スパゲティ」はあるかと聞くと「イカ墨スパゲティとてもおいしい、超おいしい」と日本語で言う。日本語のメニューとワインを持ってくる。ワインをついで「カンパイ」、料理を持ってきては「いただきます」と言う。ふざけた野郎だ。食べ終わると「おなかいっぱい」、勘定というと「ちょっと待ってください」そして別れ際「有難う」「儲かりまっか」「さよなら」ときた。愉快な奴だ。大阪にいたことがあると言っていた。
ベネチアはイカ墨スパゲティが有名だ。ムール貝や魚のスープなど海鮮料理が豊富である。ベネチアグラスにカメオ、それにベネチア仮面も有名だ。毎年2月に「カリネヴァーレ」という祭りがあり、人々は仮面をつけ、ドレスをまとい、歌い踊る。また、この仮面には幸運が訪れるといわれ、町中で売られている。私も2個買って帰った。
翌日、重いスーツケースをごろごろとサンマルコ乗船場まで運び、水上バスでサンタルチア駅に向かった。ここからユーロスターでローマまでの電車の旅である。オリエント特急だ。荷物が重くて棚に上げられない。屈強な男が手伝ってくれた。拍手が起こる。前の席のご婦人がテーブルの出し方を教えてくれる。みな親切だ。初めての列車の旅である。10時半サンタルチアを出発する。「サマータイム・イン・ベニス」の哀愁漂うメロディーとともに、キャサリン・ヘプバーン扮するジェーンが汽車の窓からレナートに手を振って別れるラストシーンが蘇ってくる。「旅情」の名場面だ。