ラス・リラス便り
第 1 号
平成16年10月25日
アルゼンチン国コルドバ州ビジャマリア市
須郷 隆雄
新たにラス・リラス便りを発行します。
ラス・リラスとは、私のマンションのすぐ側にある喫茶店の名前です。町の真ん中にある中央公園の交差点の角にあります。人通りが多く、いつも賑やかな喫茶店です。
リラスはライラックとも言うと思いますが、リラの花の意味です。
私はよく休みの日の午前中にこの店に行き、70円のモーニングコーヒーを飲み、新聞や雑誌を読みます。時には日本から持ってきた本を読んだりしながら、大体2時間はつぶします。
私はいつも、交差点が良く見える窓際の4人がけの席に座ります。
喫茶店;ラス・リラス ラス・リラス向かいの中央公園
ここで繰り広げられる人間模様を報告したいと思います。
私が席に着くと何処の国から来た人かと言う顔をして、ウェイトレスが注文をとりに来ます。決まってコルタードを注文します。するとハーフカップのオレンジジュースと月型をしたメディアルナというパンが付いてきます。それからおもむろに新聞と雑誌を持ってきて、スペイン語の勉強も兼ねてゆっくりと読み始めます。それからの2時間が、これからお話しする物語の始まりです。
犬が遠慮がちに入ってきます。お客を上目使いに見ながらテーブルの間をゆっくりと歩きます。誰かがパンをあげると有難うと言う顔をして床に座り込み、これまたゆっくりとコーヒーを飲み、タバコを吹かしながらという感じで食べます。食べ終わるとゆっくりと腰を上げ、ひとつ大きな欠伸をしてのたりのたりと通りに出て行きます。誰も犬には関心を示しません。話に夢中です。とにかくこの国は犬が多い。レストランでもホテルでも銀行でも、ましてや通りには。どんなに人通りが多かろうと寝そべっています。人はそれを邪魔者扱いするでもなく、それをよけて歩いています。犬と共存しているといった感じです。大概は野良犬です。
子供が入ってきます。カードをテーブルの上に置いていきます。配り終えると回収し始めます。時には25か50センターボあげるお客もあります。1ペソあげる人はまずいません。貰えようが貰えまいが回収していきます。決してねだりはしません。回収終わると悪びれることもなく表に出てゆきます。時にはウェイターからジュースやパンをご馳走になって行きます。店の中にこの子を咎める者もおりません。このような子供が多いのもアルゼンチンの特徴です。
靴磨きが入ってきます。客を物色します。客を見定め、脇に座ります。まず断ることをしません。磨き台に靴を載せ、無表情に新聞を読み続けます。磨き始めると店内が靴墨の臭いで充満します。しかし誰一人文句を言うものはいません。終わると2〜3ペソもらい、また店内を見渡して、めぼしい客がいないとのたりのたりと通りに出ていきます。これは日常の出来事です。この国は敬虔なカトリックが多く、奉仕の精神が徹底しているようにも思えます。有る者は施し、無い者は施しを受ける。これを当然のこととしています。施す者も奢らず、受ける者も遜らず、人間として対等の付き合いをしています。
これは素晴らしいことだと思います。まずは第一報です。
大道芸人 街角のタンゴ