ラス・リラス便り
第 3 号
平成17年4月15日
アルゼンチン国コルドバ州ビジャマリア市
須郷 隆雄
スペイン語の勉強のためコルドバに行くべく、バスターミナルへ。バスが故障で動かずとのこと。次は1時間半後だという。悪びれずに言うのに驚く。駅は人でごった返している。取り立てて文句を言う人もいない。こんなものかという雰囲気だ。仕方なく電話をし、今日の授業は取り止めとする。
このような光景は良く見かける。何時だったかブエノスアイレスに出張の帰り、バスのクーラーが故障する。耐えられないほどの熱さになる。さすがに乗客から苦情。ロサリオの駅で、修理してくると言い残し乗客は全員降ろされ、バスは何処へか行ってしまう。いつ戻るのかと聞けば、「さあ、1時間はかかるでしょう。」とのこと。乗客はただ待つのみ。1時間後バスが戻ってくる。ほっとしたものの、気が気ではなかった。ビジャマリアへはまだ4時間もかかる距離である。それも夜8時過ぎのこと。バスの事故は多い。パンク、跳ねた石で窓ガラスが割れること。その度に、いつ動くか解らないバスを待ち続ける。忍耐強くなければやっていられない。こちらの人は当然のこととして、待つことを楽しんでいる風でもある。日本人には信じられない光景だ。
ある時、コルドバでタクシーに乗ると、途中でガス欠。無線で仲間のタクシーを呼んでガソリンスタンドまで押していくのである。これには驚いた。車を商売にしているタクシーの運転手がガス欠を起こす。何とも信じられないような出来事だ。日本では絶対に考えられない。お陰でバスに乗り遅れる。運転手の悪びれた様子は微塵もない。鷹揚というか、こんなスタンスで世の中が回っている。
それでいて、飛行機が着陸したりすると降りる準備の早いこと。通路にずらっと並んで待っている。まだ座っていてもいいんじゃないかと思うのだが、そうではないのだ。せっかちなのか暢気なのか解らなくなる。とにかく待つことには慣れている。
そんなことで、コルドバ行きは中止になった。夕暮れの町に戻り、喫茶店ラス・リラスに立ち寄る。仕事帰りなのか、夕食前のお喋りなのか、かなり混んでいる。何時もの窓際の席は無理であった。ウェイトレスはピンクのシャツにパンタロン、髪は一様に束ねている。金髪が多い。多分染めているのだろう。長い髪の人が多いせいか、束ねた髪を良く見かける。なかなか色っぽい。今日はTVファッションがかかっている。ファッションショウだけの番組だ。今まで気が付かなかったが、壁一面に花の絵が掛かっている。ラス・リラスに合わせてのレイアウトなのかも知れない。斜め向かいに韓国人が経営するサロモンという洋服店が見える。タクシーの運転手に教えてもらった店だ。
名前は知らないが綺麗な花 ゴルフ場のグリーンに寝そべる犬
やはり今日も女性が多い。夕方のせいか、出入りが激しい。日曜日の朝とは違う雰囲気だ。6人組のおばさん達がビールを飲んでいる。この年齢の女性は、もうこれ以上付けられないというほど装飾品を身に付けている。イアリング、ネックレス、それに指輪。指が20本ほど欲しいと言わんばかりに付けている。それに銀ぎら銀の老眼鏡だ。それに喧しいほど良く喋る。
ハエが1匹、コーヒーカップの縁にとまる。次に砂糖、灰皿と激しく移動する。なかなかここを去らない。気に入った模様だ。ハエの動きを眼で追いながら、しばしハエと戯れる。今日は犬がいない。モスカ(ハエ)がアミーゴだ。
6人組にさらに老婦人が加わる。大きなお尻を振りながら、一人一人にキッスのご挨拶。「セニョール、シージャ・ポルファボール」と言って私のテーブルの椅子を1つ持っていく。大分混んできた。立って待っている人もいる。そろそろ帰らねば。ハエに別れを告げ、夕暮れの町に出て行く。
土鍋を買いたくなり、食器屋に寄る。セラミックのものはあるが、ほとんどがレンジ用だ。フエゴ・ディレクトと書いてあるので、直火で大丈夫かと聞くと、大丈夫とのこと。底が平らなのが気になったが買って帰る。
ライバル喫茶店は客が少ない。豪華ではあるが、ちょっと暗い雰囲気だ。ラス・リラスは善戦中である。マンション入口で犬が出迎えてくれる。頭を撫でてやると尻尾をパタパタ振る。可愛い奴だ。隣の弁護士が「オラ、ケタール」と挨拶し、出て行く。部屋に戻ると、また掃除のおばさんが来ていない。無断で予定を変更するのには困る。これもアルゼンチン、鷹揚に対応している。
早速、土鍋らしきものでカレーを作ってみる。万事良好である。よしよし。しかしこの土鍋、2回目にはひびが入ってします。万事がこの調子である。物は良くないが人は良い。これも考えようだ。良しとするか・・・・。