ラス・リラス便り

第 6 号

平成17515

アルゼンチン国コルドバ州ビジャマリア市

須郷 隆雄

 

 昨晩、突然オスカルから電話があった。今、ビジャマリアに帰っているとのこと。今日1時に会うことにした。

 オスカルは、私が日本へ一時帰国する時に、コルドバ空港で知り合った老紳士だ。今はシカゴに住んでいる。3月に帰国するので、その時にまた会おうと約束していた。しかし5月の帰国になった。

 1時に何時ものラス・リラスで会う。抱き合って再会を祝する。今日はすいている。窓際の席に向かい合わせで座る。何時ものコルタード・メディアーナを注文する。先週はブエノスでノビアに会ってきたと言う。愛人がいるようだ。年の頃は私と同じくらいか、少し上のような感じだ。なかなかやるもんだ。それも平気で、すっと言うのがにくい。

「家族は日本か。」

「そうだ。」

「何故来ないんだ。寂しくないのか。」

「寂しさはあるけど、日本ではよくあるケースだよ。」

家族とはなれて生活するということが理解できないようだ。日本では単身赴任が一般的だと言ったら、仰天するだろう。

「ノビアはいないのか。」

「ノビア? いないよ。」

「どうして?」

「どうしてって、家族があるから。」

彼らには1人で生活しているのが、またもや理解できないようだ。男と女、あるいは家族というものの考え方が根本的に違うような気がする。 

 シカゴの冬は寒いという。零下20度にはなるそうだ。しかし先日、5月というのに88度になったという。摂氏ではなくカッシで言っているようだ。計算式を示して説明。(8833)×5÷930℃、なるほど納得。アメリカではカッシで言うのが一般的のようだ。

 明日はコルドバに行き、歯医者に行くそうだ。虫歯らしい。ビジャマリアには好い歯医者がないという。最近、お腹にガスが溜まるとも。いやはや、年は取りたくないものだ。

 シカゴには中国人が多いと顔をしかめる。アメリカでもあまり好感を持たれていないようだ。華僑はアジアのユダヤと見られているのかもしれない。確かに商売は上手だし、結束は固いし、しかしなかなか同化しない。その点、日本人は商売下手だし、結束力は弱いし、しかも直ぐ同化する。だから金持ちはあまりいないし、外国人にとって無害な存在なのかもしれない。しかし、愛され、尊敬されることは国際交流にとって、最も重要なことだ。先人の功績に感謝申し上げたい。

 華僑の故郷は福建省だという。しかし、広東省の方が多くの華僑を送り出しているそうだ。自然環境と富に恵まれなかったこの地域の人々が世界に富を求め、持ち前の華魂商才で雄飛したのは理解できる。世界の至る所に中華街はある。日本には22万人の華僑がいると言われている。これからして、世界中には1,000万人以上の華僑がいることになる。中国が移民政策を採ったら、シンガポールのような国が幾つか出来てしまうだろう。現にオーストラリア、ニュージランドは東洋系で溢れかえっている。華僑が政権を取る日が来るかもしれない。
 
        

       オスカルと歓談             毎日お出迎えの犬

 今回は私が払う。彼が1ペソチップを置く。アルゼンチンでは、喫茶店でチップを置くことはあまりしない。レストランでも精々5%から10%だ。アメリカでは20%が相場だそうだ。払わないとウェイトレスが追いかけてくるとのこと。アルゼンチンでは絶対にそういうことはないし、その点、過ごし易い国なのかもしれない。

 614日までビジャマリアに滞在、弟の家に居候とのことだ。まだ1ヶ月ほどある。ウェイトレスに写真を1枚撮ってもらい、滞在期間中何回か会おうと約し、別れる。昼休みを利用した1時間の再会であった。一度の出会いから友情が生まれる。確かにこういうことってある。学生時代、東北一人旅をした時、ある大学の寮で知り合った北海道の学生といまだに付き合っている。30年以上、それも年1回年賀状で。一期一会、偶然というべきか必然というべきか、人生の奇遇を感じる。
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