ラス・リラス便り
第 7 号
平成17年5月20日
アルゼンチン国コルドバ州ビジャマリア市
須郷 隆雄
夕方、何時ものラス・リラスへ。
店の前に珍しく人だかり。行商人らしき人を子供たちが取り囲んでいる。なにやら楽しそうだ。商品らしきものはあまり無い。アルゼンチン版フーテンの寅さんかな。
店は相変わらず混んでいる。年の頃30代から40代の女性グループ客が多い。何時ものように新聞を手に、コルタードを注文。隣の客が椅子を1つ持っていく。コルドバ出身のプロ・ゴルファー、アンヘル・カブレラがイギリスのダンロップ・マスターズで善戦していると書いてある。
アルゼンチンはまだ、ゴルフ人口は少ないようだ。良く行くコルドバ近郊にあるカルロス・パスのゴルフ場は、予約の必要は無い。何時でも、誰とでも、何人でもプレーが出来る。1ゲーム20ペソ(約800円)だ。さらに1ゲームやっても追加料金は取られることも無い。掘立小屋のようなクラブハウスらしきものはあるが、出るのは飲みものと軽食程度だ。トイレも簡易なもの。フェアウェーもあまり手入れが行き届いておらず、グリーンも同様だ。しかし景観は最高だ。回りはぐるりとコルドバ丘陵に囲まれ、月世界でプレーしているような錯覚に襲われる。ゴルフ場内には羊が草を食んでいるし、360度首を回す梟のような鳥もいる。テラテラと鳴くウミネコのような鳥もいる。テラテラと鳴くから名前もテラだそうだ。更にシャンピニオンまで生えている。夕食用にビニール袋を持っていくと、あっという間に一杯になる。長閑なアルゼンチン的ゴルフ場だ。彼らの名誉のために言っておくが、このようなゴルフ場ばかりではない。世界大会も行えるゴルフ場はちゃんとある。我々の仲間は通常、シニア・ボランティア夫婦と日系2世それに彼らの友人のアルゼンチン人だ。ほとんどが顔なじみで挨拶が大変だ。こちらのゴルフは18ホ−ル休みなし。相変わらず110前後をうろちょろしている。一向に上達しない。しかし、とにかく楽しいゴルフである。
ゴルフ場で草を食む羊 日系のゴルフ仲間と豪邸
また1つ椅子を若者4人組が持っていく。どうもむさ苦しい奴らだ。女性は概して綺麗だが、若者は一般にうす汚いのが多い。
行商人、ちょっと子供が減ったが、相変わらずの人気者のようだ。旅から旅への寅さんか。色々な出会いがあるだろうな。自由気ままな人生。なかなか出来ないところに夢がある。今やフーテンの寅は名画だ。釣りばか日誌も好い。最近、山田洋二監督は、シリアスに藤沢周平ものを手掛けているようだ。「たそがれ清兵衛」、ほのぼのとした気分にさせてくれる。
今度は家族連れが椅子を持っていく。最早小さなテーブルと私が座っている椅子のみ、何だかぎこちない。ズボンを脱がされたような気分だ。
昨日ゴルフの後で、コルドバ市の市民ホールで北野武の座頭市を見た。大変な混みようだ。若い世代が多い。新しいものへの関心はどこの国でも若者だ。笑いと涙、善と悪を交えて、とても含蓄のある映画だ。最後の場面が好い。悪党の親分「目明きなのに何故目盲のまねをしてるんだ。」、座頭市「目盲のほうが世の中のことが良く見えるんだよ。」
以前ラスト・サムライを見た。日本を題材にした外国映画は、笑っちゃうようなのが多い。しかし、これはなかなかの出来栄えと感心した。学校の先生方にも見せたが、日本の侍をどう見たことか。部屋の前に、私の剣道姿と兜の写真を飾っている。仲間は日本の侍と私を呼んでいる。
昨夜は映画の後、ロサリオから来た67歳の元製鉄会社勤務のシニア・ボランティアと食事をともにしたため帰宅は深夜の3時だった。昼頃起き、ベッドの中で飯島夏樹の「天国で君に逢えたら」という本を読んでいた。これは肝臓癌で余命宣告を受けた188日間の命の記録だ。「不幸は幸福のみちしるべ」という下りがある。確かに不幸が家族の絆、幸せとは何かを教えてくれることがある。不幸=幸福、死=生、悪=善。逆の立場を経験して、初めて真理を会得出来るのかもしれない。正に色即是空である。
フーテンの寅さん、また人だかり。なかなかの人気のようだ。
犬が入ってくる。頭を撫でるとまた足を乗せてくる。人懐こい犬だ。
かなり混んできた。喧騒の中にいると何故か落ち着く。